花の薫り

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花の薫り

最近、少年が花屋の前でよく立ち止まる。少し無口になり、肩幅が大きくなった。
釣人はなつかしい匂いを嗅ぎ、カフェのカウンターでサンセールを立ち飲みした。

釣りと同じではないだろうか?習ってもどうなるものでもない事は在るから ... 。
ひとりで現場へ向かい、一番カッコ良いと感じる人の横に寄させて貰う。ひたすら
その人の一挙手一投足を見詰め、見守る。全ては、そこから始まりを遂げる筈だ。
美しい花への近づき方は、心震わせる気合なしには、ほどほどでは難しいものだ。
カッコ悪くからまってしまった糸を解きながら、少年は一束の花を贈ろうとする。
風が花の薫りを運んで来る。釣人は少年の後肩をそっと前へ押し、見守っていた。

 

街の隙間

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街の隙間

初夏の朝、樹木の隙間にセーヌが輝いていた。夏を迎える穏やかなひと時だ。
石の街を吹き抜ける風の通り道だろう。石炭船は今朝も上流へ向かって行く。

セーヌはパリ市内を大きく、広がりを見せてゆっくり流れる。花の都と呼ばれる
石造りの街、パリはセーヌを路樹で挟み込み、静かにコントロールしている様だ。
上流の清廉なせせらぎとは違う、ゆったりしたリズムを、梢の隙間から覗かせる。
そんなに深くない川底に浮かび、今日も変わらず石炭船が上流へとのぼっている。
石で築いた街に風の又三郎が通り抜けて行く。初夏の陽射しが隙間に輝きを映す。
釣人と少年は光を拾いながら川沿いに歩いた。鱒が棲む上流の流れを思い描いた。

 

仕草(しぐさ)

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仕草(しぐさ)

五月になり、セーヌ河岸にはポツリポツリと釣人達が現われ始めた。
仕草:何かをする時のちょっとした動作や身のこなし。記憶に残された動き。

セーヌを渡る釣人と少年は、流れを感じ、何時も上流、下流へと目を見張る。
「釣人達が急に増えて来たネ」どんなに離れていても彼等の存在は一目瞭然だ。
ルアーであれ、餌釣りであれ、毛鉤釣りであれ、釣人達は流れを前にすると
ある種特有の仕草を曝け出してしまう様だ。河岸を歩く街人や恋人達とは何かが
違うちょっとした動作や身のこなしがその存在を示している。釣人と少年の眼は
彼等のなにげないちょっとした動作や身ごなしを見逃さない。そこに注目する。
「どんなに小さな毛鉤でも、どんなに遠くからでも、興味を抱いた野生魚には、
他の存在とは明確に違う魅惑のモノとして映っている筈」釣人は少年へ語った。
「野生魚の心を捕えるラブレター(毛鉤)の仕草?」 て、どんな身のこなし方?
毛鉤が水面に落ちた瞬間から ... 。野生魚は見る。少年の眼がキラリと光った。
二人は一瞬、流れの中にいた。その瞬間から、毛鉤は野性の仕草を奏で始めた。

 

赤毛

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赤毛

毛鉤で言う「赤色」は、しばしば習慣的に深い赤茶色に近い色を示している。
どうやら植物色、動物色の色相の違いから、感覚的に呼ばれているらしい。

例えば、「赤毛」と呼ばれる髪色はどうだろう?色名で呼ばれる「赤色」とは
明らかに違う。赤み帯びた茶褐色を習慣的に「赤毛」と呼んでいる事と同様だ。
正確な赤色とは言い難いが、その生き物の上で、十分に赤を主張する色なのだ。
毛鉤は工芸品として人から評価される場合もあるが、やはり、野生魚の審判に
応えるべく生々しさを問われるべきものだ。工学的にではなく、生物的な円が、
より丸く見える場合にも、似たような習慣的な錯覚が生じている事と思われる。
話を戻そう。毛鉤に巻き込まれた「赤毛」は、良く魚を誘う事で知られている。
果たして、魚の感性を直接刺激しているのか?釣人の趣向に応えているのか?
毛鉤名人はどんな意味合いで色名を指定するのだろう?ラブレターの謎解きだ。

 

1 サンチーム

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1 サンチーム

たったの1サンチーム( 1ユーロの 100分の1)かも知れない。
誰かが落し、拾いもどされる事もなく置き去りにされた小さきモノ。

それは丸まったミツバチ程の形で床に沈んでいた。乗車した地下鉄車両の床に
1サンチームがころがっていた。釣人と少年は先ほどからソレが気になっている。
駅で扉が開くと、一斉に大勢の人が降り去った。釣人はミツバチを拾い上げた。
「居心地のよい所へもどしてやろう!」少年へウィンクして、釣人の小銭入れへ。
うずくまっていたミツバチは、気まぐれな情けで、もう一度息を吹き返すだろう。
釣人と少年は人混みを離れ、一匹のミツバチと連れ合いで五月の街を歩いた。

 

屋根の上

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屋根の上

パリを訪れた人が「空が広いですネェ 」と仰ぎ見た。五月晴れの空だった。
家屋様式と共に変わって来た日本の空、石の街パリの空。五月は青空が似合う。

春風爽やかな初夏の訪れを知らせている様だ。時折降る雨にも冬の冷たさは
感じられない。水生昆虫は水面を仰いでドキドキしている頃だろう。昔馴染みの
五月の空にこいのぼりは泳いでいるだろうか?近代的な建築に囲まれた空にも
古風な泳ぎっぷりかナ ... 。五月の風に、ふと、パリの空を仰いだ。石の街には
確かに空はまだ大きく空いている。自由型でも横泳ぎでも、まだゆったりと泳げる
空間は残されている様だ。「柏餅が食べたいネ ... 」 釣人は少年へ語りかけた。
二人は故郷の空を思った。五月晴れの空にたなびく、屋根の上にはこいのぼり。

 

面構え

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面構え

難題を託して送り込む数々の毛鉤。ひとつひとつに、個性と面構えが在る。
行先で待ち受ける初めての体験。さあ、どんな顔を創ったらいいのかナ ... ?

大学のクラス顔合わせの自己紹介で、或る級友は、「無口です。」 と、一言で
スピーチを終えて大いにクラスを沸かせた。印象的な奴だった記憶を思い出す。
流れに釣人の思いを抱えて泳ぐ毛鉤、其れなりの「面構え」が生じて来る。
無理を承知で託すのだから、ラブレター(毛鉤)には其れなりの顔を持たせて
やらねばならない。岩陰からギラリと伺う睨みにも動じない、負けん気な
「面構え」ぐらいは備えてやりたい。「後は任せてくれ!」其れが釣人の意気地。
臆病な一面をのぞかせる野生種だが、鮭鱒科は「キカン気」の強い魚揃いだ。
釣人と少年は、「サァ 来い!」と強気にカッコウをつける。精一杯の強がりだ。

 

五月雨

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五月雨

まだそんなに暑くない空にサッ と一雨が来た。雲が動き、また太陽が顔を出す。
五月雨は傘を出すのが面倒くさい雨だ。少々濡れて歩くのがカッコ良いのだろう。

竿を握り締め小川を駆けた頃、素晴らしいハッチ(水生昆虫の羽化)と遭遇した
経験が在る。風のない小雨が止むと太陽が輝き、また無風の中に霧雨を繰り返す。
それはたぶん五月の小川であったと思う。十分な気温に恵まれた穏やかな日中に
霧雨と太陽が交互インターバルを繰り返した。その度に断続的なハッチが起きた。
魚はお祭りの様にハッチに酔っていた。初めて沢山の魚が釣れた若き日の思い出。
五月がまたやって来た。釣人と少年はまだ街にいた。釣人は思い出の体験が在り、
少年はまだ見ぬ夢を齧(かじ)っている。二人は小走りに五月の街を歩いていた。

 

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