旬(しゅん)

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酣な色

街は春に色づいている。紅葉から落葉を見慣れた網膜には新鮮で刺激的だ。
ブルーダンで始まった早春の毛鉤は、やがて薄っすらとクリーム色を帯びて来る。

季節により食欲そそられる色が変わる様に、毛鉤の色も、川底や流れの温度、
陽射しや気温を読んで微妙に変化が生じる。枯色にコントラストした秋色は
春の水気をたっぷり含んだ鮮やかな色へと移行して来る。そんな色には甘味に
加えて酸っぱ味が含まれている。毛鉤釣りは味覚や嗅覚で魚を誘う釣法ではなく、
無味無臭の素材、色や質感、シルエットなどで魚と対峙する趣をルールとした。
餌釣りと異なる定めを持つ事で、何かを放棄し、新たなモノを手に入れようと
試みた釣法のひとつだ。ハンディキャップを覚悟で、虫と変らぬ軽さを武器に、
先達はラブレター(毛鉤)を巻き始めた。生き生きした季節のみずみずしさを
色や質感で表現する愉しみが生まれる。釣人と少年も、腕を競って巻き比べる。
やがて毛鉤は、まだ見ぬ大物を想い、虫から未確認の生き物へと色づき始める。

 

弱虫

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弱虫

自らの弱点に気づくと、もう弱虫ではなかった。風と光へ、翼が輝いた。
かよわい構造を持ちながら、生まれ貰った体ひとつで時の流れを渡って行く。

装備を全て外した釣人は?一体どれほど自然の中で平常心を保てるだろう?
季節であっても、全てを脱ぎ捨てた体ではひと時すら適わないのが現実だ。
『流れでは小人で在れ』 『釣る時は虫になれ』 時々諭してくれた師匠の言葉だ。
自然の中では強がりを見せたモノから消えて行く。己の力量、正確な見極めが
ライフラインの鍵となる。『弱虫と呼ばれる勇気を持つ事』も、時には大切だ。
風に乾かし、光を取り込んで、かよわい構造は心震わせる生き物へと変わる。
観察してみよう。生き物には、どこかに必ず宝石の様な輝きが潜んでいる。
釣人と少年はちょっと安心して互いを見詰めあった。細部の探究を開始しよう。

 
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回廊にて

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回廊にて

パリ市庁舎の少し北側にお気に入りの回廊が在る。無料で展示物が観られる。
一周五分も要さぬ小さな回廊だが、石組みにはしっかりした落ち着きが在る。

釣人の散歩コースに市庁舎すぐ横の BHV がある。地下階の大工用品売り場を
お目当てに足を運ぶ。ひととおり目を通し、館を出て北へ歩く。すぐ近くに
医療器具店があり、毛鉤巻き時に使えそうな便利な用具はないかなァ ?と
店内のショーケースを覗く。最初は店員も訝しがっていたが、正直な処を
説明して以来、出入りが楽になった。あまり用具を増やしたくないのだが、
それでも時々、あれば便利だなァ と興味惹かれるモノが在る。ポケットを探り、
暫し、じっとガマンを決め込む。同じ道をもう少し北へ上がると、右側に
お気に入りの回廊がある。此処はよく個展や展示場として使われる。内部は
しっかりした石壁を生かした造りだ。回廊と中庭を入場無料で観せてくれる。
気楽さに感謝する。個人的な好みだが、石肌に浮かぶ色彩は美しく心地良い。

 

反抗期

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反抗期

成長の過程で様々な門をくぐり抜ける。「反抗期」とは正しい使われ方だろうか?
確信が持てないものへの検証を試みる。疑問をいだく事と反抗は同じものではない。

教えられた通りにやれば納得行く結果が得られるのであれば、ソレもソレだろう。
大人の視線では「反抗期」という言葉が便利となる。門をくぐる者がその時々に
求めているものは、それ迄の体験では解決出来ない難問やら不十分な検証から
湧き上がる己への不確かな疑問ではないだろうか?仕事机の横に一本の竿が在る。
師匠に付き第二作目の竿だった。教えられた通りの第一作竿。微かな手ごたえに、
第二作竿は独自流に己の疑問をぶつけた。教えられた方法と多少違う箇所が在る。
歳月が過ぎ、頼りの師匠も他界した。何時の間にか、眼鏡のお世話になっている。
なぜか其の第二作竿だけはいまだに手放せない。残念ながら失敗の竿であった。
しかし、釣人は、其の竿を正しく使いこなす方法を、自分だけが知っている事に
やっと気付き始めた。竿との付き合いはそんな事から始まる。時の流れは大切だ。

 

ブラッキー

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ブラッキー

秘密の小箱を見せ合う。季節の変わり目、釣人と少年は毛鉤に風を通す。
歴代の傑作やら、金星挙げて健闘した毛鉤など ... 。隅っこには何時もブラッキー。

「川なら黒さ!」あっさり一言でアドバイス貰った事がある。その釣人の腕には
1m 弱の美しいアトランティック(大西洋鮭)が輝いていたのだから、説得力は
充分だった。「鮭鱒はネ、黒、オレンジ、赤、銀に、そりゃー良く反応するヨ」
説いてくれたのは、別の毛鉤巻き名人だった。何時かきっと腕に抱きしめたいと
夢へ向かって全力疾走であった頃、心に焼き付いたアドバイスだった。そして、
それ以来、二人の毛鉤箱の隅には必ず「ブラッキー」がいた。お守りの毛鉤だ。
それらは季節に変え、大きさが変わっても、扉を拓いてくれる魔法の鍵に見える。
探究を続けて、自分流「ブラッキー」を巻き上げて見たい。二人専用のお守りだ。
カラフルな小箱に在って、古風な「ブラッキー」は大きな夢を適えてくれるかな?

 

少年の視点

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少年の視点

釣人の視点はだんだん魚寄りになって来る。 と、言われる。少年の視点に訊く。
「全体から部分」を探す習慣に縛られず、再度「部分から全体」へと真偽を問う。

少年は「テーブルの毛虫」が気になり、釣人はワイングラスへと思いを馳せた。
或る者にはピンクの口紅に見え、また蒼い空を感じるかも知れない。限りある
発信の中に、其々の主張が息巻いている。魚はどんな観点で、餌やライバル、
毛鉤にとびついて来るのだろう?そんな疑問を抱きながらラブレター(毛鉤)を
認めて(したためて)いる。何時の間にか?釣人の視点は魚へと近づいて来る。
果たして、その兆候は、表れて来るのだろうか?知らず知らず、社会へ馴染み、
分析や判断がスピードで評価される事に慣れると、都合上、「全体から部分」を
万事素早く読み取る習慣が身に染みて来る。この道理は、果たして野生の生物に
通用するだろうか?釣人は少年へ訊き、重要な「部分から全体」を再確認する。
二人の毛鉤は、大人の視点で観るモノから「不可思議なモノ」へと変わって行く。

 

静謐な朝

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静謐な朝

セーヌはパリで二つの島を挟んで流れる。流れは早朝に静けさを増す。
静かに石の街が目覚め始める頃、散歩する釣人の足音が朝の光に響いた。

自宅のインターネットが故障となり、新しいルーターが届いて瞬きを再開した。
当たり前となっていた日常生活が、不便になって初めて、随分と現代機器に
依存している事に気付かされる。元気良いシグナルの点滅に ホッ と胸を撫で、
感謝せざるを得ない。早朝の街へ出た。優しい光だ。「釣りに行きたい!」
そんな気持ちが朝の静かな流れに吸い込まれる。早朝のセーヌは、ひときわ
穏やかに流れる。まるで、毛鉤の落ちる音が響いて来るかの様な錯覚を覚えた。

 

棲み分け

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棲み分け

生物界には生存競争を回避する「棲み分け」ルールが自然に発生した。
互いの存続を守る為、生活の空間・時間・時期などを分け合い侵さない知恵。

様々な分野を学び、教えられながら人間社会は発展を遂げて来た。学問やら
知識だけでなく、精神的な分野や芸術の感覚に至るまで各レベルを深めている。
学校ではまだ経験の少ない年少の頃から、教育が始まる。そんな授業の中で、
自然界の構成原理のひとつとして「棲み分け」という生物界のルールも学ぶ。
競争を緩和する為の生き物の知恵と教えられる。人間も生物の一員と学んだ。
さて、此処からが頑張り処ではないかナ?競争を回避しながら、共存する事。
釣人と少年も胸に手を当てる処だ。強者になった時の行動が問われるだろう。
二人は、とりわけ魚との付き合い方を考えた。流れと正対する釣人の生き方だ。
流れの前で何処までカッコ良い釣人で在り得るか?二人の探究の原点だ。

 

仕掛ける

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仕掛ける

ガラス越しの怪しい網に羽毛が ... 。釣人と少年の心は既に囚われの身だ。
「釣人は蝶々じゃないヨ」力んでみても、後の祭り。二人揃って瞳は点だ。

一服中の釣人に、懐かしい森山加代子「白い蝶のサンバ」が聞こえて来た。
阿久悠作詞を坂本冬美がカバーしていた。本家本元もいいなァ と感心するが、
さすがプロは、カバーでも妖艶に聞かせてくれる。プロが仕掛けた網には
釣人はどうやらイチコロだった。職人芸を見せてくれる蜘蛛の網は、古から
殆ど其の作法を変えてはいない。改めて、其の技、完成度の深さに感心する。
魚同様に釣人も鳥の羽毛には弱みが在る。下準備は山ほどある毛鉤釣りでも、
其の釣法に「誘う」と言える要素は認めるが、「仕掛ける」と言う要素は
見出し難い。どうやら、網に掛かるのは釣人達と言う「シナリオ」らしい。
釣人と少年は、身を任せて堕ちて行くのかナ?先手の策を、二人で思案中だ。

 

シンデレラ

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シンデレラ

「シンデレラ」は掃灰娘の物語だけではない。明日へ向かって飛び立つ姿勢。
毛鉤で知る水生昆虫の多くは、約束の空へと、水中から空へ飛翔して行く。

釣人は運動学と関わる大学生活を日本で過ごした。そのお蔭で、最近聞く
「アスリート」と使われる言葉とは「無縁」でいられた。外から眺める事と
内から見る視点には違いが在るからだ。約束の空へ飛翔する。水生昆虫は、
一体、何に支えられ夢へ駆けるのだろう?消化器官すら離脱して空を求める。
釣人は、雌雄に関わらず、その輝きに「シンデレラ」の姿勢を見出した。
少年も何時か上空をじっと見詰める。其の時は、一緒に空へ飛び立ちたい。

 

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