JUGEMテーマ:日記・一般
水辺に寄り添って生きる。ひと時を、ゆっくりと海へ向かって流れて行く。
流れを前に、小さな自分をやっと取り戻す。時々、流れの傍に寄り添っている。
傍に腰下ろす人。五木寛之「大河の一滴」(幻冬舎文庫)から引かせて頂く。
釣人は少年に文庫本を朗読する。今日は『人はみな大河の一滴』から始めよう。
空から降った雨水は樹々の葉に注ぎ、一滴の露は森の湿った地面に落ちて
吸い込まれる。そして地下の水脈は地上に出て小さな流れをつくる。やがて
渓流は川となり、平野を抜けて大河に合流する。その流れに身をあずけて
海へと注ぐ大河の水の一滴が私たちの命だ。濁った水も、汚染された水も、
すべての水を差別なく受け入れて海は広がる。やがて太陽の光に熱せられた
海水は蒸発して空の雲となり、ふたたび雨水となって地上に注ぐ。 人間の生命は
海からはじまった。人が死ぬということは、月並みなたとえだが、海に還る、
ということではないのか。生命の海に還り、ふたたびそこから空にのぼっていく。
そして雲となり露となり、ふたたび雨となって、また地上への旅がスタートする。
存在するのは大河であり、私たちはそこをくだっていく一滴の水のようなものだ。
ときに跳びはね、ときに歌い、ときに黙々と海へ動いていくのである。
私たちの生は、大河の一滴にすぎない。しかし無数の他の一滴たちとともに
大きな流れをなして、確実に海へとくだっていく。高い嶺に登ることだけを
夢見て、必死で駆けつづけた戦後の半世紀をふり返りながら、いま私たちは
ゆったりと海へくだり、また空へ還っていく人生を思い描くべきときにさしか
かっているのではあるまいか。「人はみな大河の一滴」ふたたびそこから
はじめるしかないと思うのだ。 /五木寛之「大河の一滴」(本文より部分抜粋)
釣人は只ひたすらゆっくりと読み上げた。少年は流れを見詰め、静かに頷いた。
無言の迫間(はざま)、国境のない空を大河「共和国」が夢の様に流れて行く。