春の雫(しづく)

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春の雫(しづく) 

花も咲き、すっかり暖かくなった。鳥も空高く気持ち良さそうに飛んでいる。
釣人と少年は、昨年の毛鉤箱を確認する。新しい毛鉤が巻きたい季節だ。

真っ新の毛鉤は透明感もあり、やはり艶が違う。釣れそうな気概が満ち溢れ、
摘まんだ指先でピチピチ動き出しそうな新鮮さだ。ティペットも交換しておこう。
釣人と少年は入学式場へ向かう新入生の如く、ピッカピカの部品へ交換中だ。
釣具の強度確認では、濁った部分は弱っている場合が多い。艶と弾力は安全
を保障してくれる。「ついでに竿も磨こう!」少年の竿は春に輝き始めている。


お彼岸

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お彼岸 

宗教的な儀式は余り得意でなく、目を瞑って西に沈む太陽へ手を合わせた。
此岸からお彼岸へ、「ありがとう」と「見守っていて下さい」をお祈りする。

おおよそ、春のお彼岸から秋のお彼岸迄の間に、鱒川での釣りが解禁される。
春を待ち、首伸ばして待ちに待った鱒川が開き、釣人は季節を過ごし、秋が来る。
鱒釣りを始めてから「お彼岸」と言う響きが、余り縁のなかった釣人と少年の心に
何時の間にか、沈む太陽の西日に向かって合掌する習慣を齎している。暖かい
西日の色は、瞼を閉じても心に染み込んで来る。二人は、西方に手を合わせた。


蓮の花

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蓮の花 

「蓮は泥土の中から茎を伸ばし、水表に花を咲かせる」師匠が答えてくれた言葉。
「ドブに落ちても、根のある奴は、やがて蓮(ハチス)の花となる」寅さんが歌う。

朝のコーヒーで目覚め、インターネットでニュースを見る。フランスの鱒川、鮭川は
先週末に解禁され、いよいよシーズン開幕。春分の日も近づき、日射しには嬉しい
春の匂いがする。朝の画面に悲惨なニュースが並ぶ。悲しい事だ。「狂気の凶行」
「名誉ある撤退」釣人はベトナムのソンミ村、天を指す像を思った。テロと呼捨てる
言葉で始まり、テロリストと名指し、裁きを下す正義の軍隊は、何者なのだろうか?
他国へ入る兵士達は、一体何を大義に戦うのだろか?朝のニュースに言葉を失う。
「弱い者の味方だ!僕達は蝶になる毛虫で在りたい」釣人は少年に語ろうと思った。


ドロッパーとリードフライ

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ドロッパーとリードフライ 

枝針仕掛け。二つ以上の毛鉤を結ぶのだが、基本はドロッパーとリードフライだ。
ドロッパーは見せ針(魅せ針)、リードフライは掛け針と呼ばれている事もある。

針を増やす事で多くの魚を掛けよう!と始まったのか?誕生の秘密は解らないが、
枝針の底知れぬ神秘は、そう簡単な種明かしでは満足出来ないベール奥に在る。
キャスティングのメソッド上、手前に結ばれるドロッパー(毛鉤)は大きめ、糸先に
結ぶリードフライ(毛鉤)は、ドロッパーよりやや小さめが一般的な枝針仕掛けだ。
大切なポイントは?「ドロッパーが絡まないこと!」少年が答える。ドロッパー結び
糸は小指の長さもあれば十分だ。それ以上は、長過ぎると思った方が良いだろう。
見せ針と呼ばれるドロッパーが野生を目覚めさせ、後引く掛け針(リードフライ)が
勝負針と言われる事が多い。相性の良い両者は、互いにアクセルを吹かしながら、
野生の心を刺激する。ブーメランの如く、流れをゆく二人の粋な心意気に肖りたい。


一筆書きラインコントロール

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一筆書きのラインコントロール 

針金一本の顔のオブジェ。「悪くないネー」「面白いネ!」、一筆書きの表情だ。
釣人と少年の一筆書きラインコントロール。このラインが伸びてくれれば良し!

キャストであれコントロールであれ、「ボリュームを増した容量を一度クリアーに
直線へ清算する」と言い変えてしまったら、乱暴過ぎるだろうか?問題は最終時、
ラインが希望の状態へ至っているかどうか?が勝負所だ。途中経過は自由型で
良いのかも知れない。プレゼンテーション、その最終段階がやはり何より重要だ。
様々なテクニックを全て大きな輪で包括し得る、一歩先のキャスティング術とは?
釣人と少年は微かに見えて来た感触へ向かって、もう一歩踏み込もうとしていた。


噛みつき虫

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噛みつき虫 

鱒釣り解禁近し!川開きの初期に、まだ虫の少ない流れに ... 。空想の毛鉤陣。
管理釣り場パターンになるかナ?いやいや、初期の川で使えそう!少年の夢鉤。

餌釣りや疑似餌釣りから思い切って離れて見たい。空想の生き物、只ならぬ毛鉤。
自分の毛鉤に生命を吹き込んで巻き上げる。まったく新しい生物、大いに結構だ。
釣人と少年はウィンドーを眺め、目を丸くした。芸術家の空想力は、大した勢いだ。
二人は思わず手打ち合って「噛みつき虫」と命名した。何だか解らぬ生物らしいが、
胴や足部に動きを感じ、明確に頭部の存在を主張するオブジェだ。使わして頂こう!



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