魚が釣れた日

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魚が釣れた日 

「太陽が清々しい朝だった ... 」。頬赤らめた青年は、少しはにかんで日記に書き込んだ。
魚名を聞くと、青年は、「シュベンヌ!」と魚を前に掲げて見せ、静かに川の流れへ戻した。

パリの街中、ノートルダム大聖堂裏側のセーヌ川右岸で青年が良型を釣り上げた。セーヌを対岸へ渡っていると、遥か川岸に熱気を感じた。釣人と少年が駆け寄ると、ルアー竿を傍に立掛けた青年が良型の魚を抑えていた。青年の赤ら顔が、彼の至福を熱気を伴って伝えて来る。少年は目を丸くして、魚一点を見詰めている。自分の家から徒歩 5分、セーヌの川が生きている。ルアーでも毛鉤でも、釣人にとって魚が釣れた日は何よりも嬉しい吉日なのだ。


秋支度(あきじたく)

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秋支度(あきじたく)

秋分の日を境に昼と夜の時間が逆転する。日照時間は減り、秋冷えがやって来る。
秋陽に身を任せているのも今の内。やがて、寒気は高緯度にその縄張りを広げる。

昨年秋は、山を下り、里へ出没した熊のニュースが目を引いた。山に実りが少なかったのが原因だろう。本年は、様々な災害が繰り返し重なった。天災や人災が続き、政治が揺れて、経済にまで雲覆う試練の年であった。厳しい冬を前に、自然は秋を実る。気持ち良い秋陽を浴びたら、秋支度へと取り掛かろう。釣人は、夏仕事で一部配線替えを終えた電気回線に暖房ヒーターを再接続した。釣人の「スイッチ・ON」に、少年が答えた。赤いランプが灯ると、暖房機が温まった。二人は、冬の暖房確保を互いに終え、山の動物、秋の暮らしを思った。


ミグラター(移動性の動物達)

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ミグラター(移動性の動物達) 

2011年川閉め釣行を終え、V村を後にする。出発日は、秋晴れに見送られた。
Migrateurs:移動性の動物や渡り鳥の一群。移動(回遊)する魚達にも使われる仏語。

川閉めが始まるセーヌ上流 V村を後にする。村外れの畑中を繋ぐ電線に、南へ渡る小鳥の一群が翼を休めていた。小さな体に精一杯の野性を秘め、冬期を南へ渡る可愛い一団だ。車を止めて、カメラを向けると 2/3 の大半がアッ と言う間に飛立ってしまった。「悪いことしたネ!危害を加えるつもりはないんだヨ」。電線に残ったのは、経験を積んだ老年組だろうか?ミグラターは冬を南へ渡り、川閉め釣行を終えた釣人と少年、相棒の三人組は来春川開きをパリで待つ。「春にまた会おう!達者で旅を!」三人は、南へ渡る小鳥の一群に手を振った。


水の音

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水の音 

『静かざるを学べ / Study to be quiet. 』と、アイザック ウォルトンは書き残した。
Izaak Walton :英国人作家 1593- 1683。「釣魚大全/Compleat Angler」で知られる。

1653年に著された「釣魚大全」には、「釣りこそは、瞑想と行動の調和をもたらしてくれる」と示されてある。やがて時代を超え、彼が残した『Study to be quiet.』は噛みしめられ、多くの釣人に精読の言葉として残った。釣人は、少年と相棒に「川の音を聞こう!」と問いかける。最近では、少年も相棒も、静かな川音に合わせて「バード・コール」を奏でるのが旨くなった。樹に小鳥が集まる頃、流れは水の中を静かに見せてくれる。寂しさのない孤独を享受する。


水鏡(みずかがみ)

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水鏡(みずかがみ) 

今年の川閉めを相棒は竿を納めての見学休養で過ごす。膝の回復を第一優先とする。
竿を握らず流れを眺めていると、川は何時になく繊細な変化を映し出してくれるものだ。

読み掛けの本を片手に、今回の相棒は随分と軽装だ。夏はまだ暫しと、日射を残している。前回の釣行時での転倒滑落事故後、相棒の膝関節捻挫は回復順調な経過だが、まだまだ油断禁物。「ゆっくりやって見ようかナ」と言う相棒を、釣人と少年は安全第一と引き留めた。二人は魚が別世界へと誘い出してしまう事を十分承知しているからだ。そんな訳で今回は、川辺で休む相棒の避難場所を確保しながら、流れを移動した。等身大の安全策を選択した三人組に、流れは時折素晴らしい光景を垣間見せてくれる。射し込む陽光に清流が輝いた。


グッド・モーニング!

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グッド・モーミング

陽が昇る頃、朝靄が湧いた。響いていた流れの音は静かに吸い込まれて消えて行く。
「Good Morning !!」 夜明け前、小気味良く鋭い魚信が伝わったが、竿には乗らなかった。

音が消えた朝靄の水面に、小さな毛鉤を浮かせて見たくなった。ティペット(釣糸先端部)に細糸を足し、ドライ毛鉤に結び変える。風切りが良くなったラインは気持ち良く伸びてくれる。昨日の少年のドライ・キャスティングが浮かんだ。「ターン・オーバーが大切だ」。個人練習の賜、少年は掴み始めていた。バックキャスト時に毛鉤の水切りを行い、フォワードキャストで丁寧にリーダー・コントロールが適うと、薬品を塗り込まずとも、ソフトランディングだけで毛鉤は十分に水面に乗ってくれる。ライズのない朝靄の水面を流れる #18 エルクヘアーカディス(ドライ毛鉤)に、可愛い鱒が水藻の下から突然飛び出しては釣人の胸を締め付けてくれた。「抜け駆け」を充分に楽しませてくれた。朝靄が晴れ、お腹が空いて来た。朝食の時間だ。民宿の部屋から、モーツァルトの朝曲が聞こえた。少年と相棒は、目覚めたようだ。まずは、絞たてのオレンジジュース。「川の灯」は一日の眠りに入る。釣人は、橋の袂を振り返った。




川の灯(ともしび)

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川の灯 

灯は小さくとも、辺りを照らしてくれる。夜明けの薄明りにセーヌのせせらぎを聞く。
川辺の民宿が嬉しい。静まる流れに分け入り、「未知との遭遇」に夢膨らませる。

釣行時に目覚まし時計は無用だ。寝坊もまた良し。流れの誘いに起されてこそ、夢の続きを見るのが良い。釣人は夜明け前(五時)に目覚めた。少年と相棒は、熟睡中だ。膝関節捻挫リハビリ中の相棒と昨夕頑張った少年は休ませた方が安全だ。釣人は夜明け前の流れへ「抜け駆け」を決め込んだ。橋の袂には、全てお見通しの灯が行き道を照らしていてくれる。川に沿って少し歩くと安全な小さい川原がある。「もうすぐ陽が昇るよ!足下気を付けて!」川の灯に見守られて釣人は歩き出した。糸には既に#12と#14のソフトハックル(毛鉤)が、結んである。大振り禁物、コンパクトなキャストだ。着水の音だけ頼りに、夢の続きが始まる。


『九月の雨』

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九月の雨

薄曇りになると絹糸の様な雨に変わった。ぬるく湿った気温に、微かなライズが始まった。
久しぶりに、小さなドライフライ(水面に浮かせる毛鉤)を使って見ようか?#18 位かな?

「ドライでやって見るかい?」釣人は少年に薦めた。釣人は何時からか?滅多に釣られない夢の魚を求めて、殆どの状況をウェットフライで探求する様になった。ウェットフライの可能性へ夢託しているだけなのだが ... 。最近では少年、相棒までが、何時もウェットフライを結ぶ様になった。其々が直面する探求模様は為になるが、ドライフライにも深みや面白さが秘められている。見逃せない事は、「小魚を釣り上げられねば、夢の魚は遥か遠く ... 」と言う事だ。毛鉤釣りは状況に合わせ様々な釣り方を楽しめる釣りである事、忘れるには惜しい釣りだ。早速、少年は「九月の雨」の様な細く長いティペットを釣糸に継ぎ足し、 小さなドライフライ、#18 エルクヘアー・カディスを結ぶ。釣人と相棒が見守る先で、少年は見事に「可愛い鱒」を釣り上げた。「綺麗なターン・オーバーだね!」二人は少年の探求ぶりに目をほころばせた。


川閉め前

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川閉め前 

フランスの鱒川は産卵を守る目的で 9月中日〜 3月中日迄の冬期間が「川閉め」となる。
野生鱒(ファリオ)とグレーリング(オンブル)が共存する川では、 5月を待たねばならない。

釣人にとってシーズン最後の釣行は、その年の締め括りだ。過ごして来た月日、見えて来た未知の流れや奥深さは来春迄の心支えとなる。釣人は冷やかされ、笑われる事承知の上、釣行直前に久しぶりのヘアーカットをサンジェルマン・デ・プレの洒落た店で済ませて来た。そう、セーヌ上流、この V村の流れこそは、亡き師匠がパリからベスパを乗り付け通い詰め、青年期を過ごした流れだ。この村の流れは一筋縄ではない。深く抉れた淵や荒瀬、底石を隠す静かな流れや清水湧く白色石灰岩のチョークストリーム。勿論、その変化に富んだ流れの中には、ファリオとオンブルが共存する。ウェーダー(胸丈防水釣着)は禁止、キュイサード(股丈釣長靴)までと、守られている。釣人と少年、相棒にも優しく微笑んでくれる流れだ。


釣人の「六度」

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釣人の「六度」 

『 月日は百代の過客にして 行き交う年も また旅人なり  』 松尾芭蕉
「お彼岸」が近ずくと、禁漁期間の「川閉め」がやって来る。彼の岸へ暫しの別れを告げる。

秋の気配を感じるパリから南下すると、まだ深緑が残っていた。空は次第に薄くなり、やがて北西から冷たい風が吹いて来る。今年も、季節がひとつ過ぎようとしていた。仕事に区切りを付け、釣人と少年、相棒の三人組は、川閉め前のセーヌ上流へ向かった。相棒の転倒滑落事故から一ヶ月が経過、感謝すべき回復で運動リハビリが始まった。無信心の釣人だが、掌を合わせる事を学んだ。今年の川閉め釣行は、相棒の休養、リハビリ歩行散歩の手助けに時間割いてくれた少年を労う。セーヌ上流、川辺の民宿 二泊三日。釣人は今期を想った。「練習に惜しみなく心を込め、釣りの行いは正しかったか?釣れぬ時にも心を治め、サボリを決めず精進したか?散漫を静め、心明るく励んだか?」。釣人は暫しの別れを川へ伝える。


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