「オンブル]の隠れ家

JUGEMテーマ:日記・一般

「オンブル」の隠れ家 

オンブル:「Ombre」仏語で影と呼ばれる野生魚。脂鰭(あぶらびれ)を持ち、毛鉤を追う。
背鰭を広げると美しい鼈甲(べっこう)模様が現れる。おちょぼ口だが引きの強い好敵手だ。

共に毛鉤を追う川魚でありながら、鱒とオンブル(英名:Grayling)には、その性質に面白い程の違いが見受けられる。釣人は少年に説明した。「発見と同時に逃げ去って行く野生魚、それは鱒だろう。ゆっくりその姿を観察させてくれるならオンブルと思って良い」。オンブルはそう簡単には逃げない魚だ。ところが、安全の確認には随分と厳しい吟味眼を持っている。「鱒は寄り方が勝負、オンブルは毛鉤の選択が重要となる」。捕食の様子はどうだろうか?鱒はストレートに食い付いてくるが、オンブルは背面跳びの様なスタイルで、反転しながら、良く毛鉤を観察の上、流れ去るぎりぎり後方で吸い込む様に追い食いしてくる。毛鉤交換も逃げずに定位したまま待っていてくれるので、知恵比べの好敵手と言われている。一般的な作戦は、ウェット派、ドライ派共に、極細の超ロングティペット(長い先端釣り糸)。米粒大の極小ニンフ(模擬幼虫鉤)、ドライ派には深紅のボディーに白色CDC(鴨尻毛)ウィングなどの小さな毛鉤が使われている。釣人は特別な作戦なしに小さ目の鱒用毛鉤で、小型オンブルとは出会っていたが、大物良型を目指す場合は、的を絞った作戦が必至となる。セーヌ上流 V村での良型オンブルが潜む「隠れ家」は既に見つけ出してある。石灰石と火打石の砂利で白く透ける深い淵。底に微かな湧き水が認められる、水通しの良い流れだ。釣人と少年は、目標の対象魚に的を絞り込み、探求の知恵を練っている。流れは、二人に宿題を手渡した。


川の学校

JUGEMテーマ:日記・一般

川の学校 

春に孵化した川辺の新入生。稚魚は生きる術を習得する迄、溜まりに群れで行動する。
卵に蓄えられた当座の栄養源を頼りに、 DNA に導かれて、初餌の在り処に辿り付く。

無知で流れに向かう事は自らの「死」を意味する。強い流れは、稚魚には遊泳禁止地域だ。
釣人が丁寧に流す毛鉤以上に、その小さな生き物は野生鱒の食欲を刺激するに違いない。大きな魚が近づけない浅瀬、鳥影が良く見える開けた場所。水中の動きには恐れ、空から水面に落ちる小さな物だけに反応を示す。「逃げ場所は群れの中」と決め込んだ可愛らしい新入生達だ。未知の恐怖、『高濃度汚染水』の危険性から自らを守る術や知恵を、一体誰が彼等に授けるだろうか?人間が生んだ原子力の危険性を、まだ誰も彼等へ伝えられない。


朝露

JUGEMテーマ:日記・一般

朝露 

鳥声で目覚めると、素晴らしい晴天だった。長靴を履き、朝食前の散歩に出る。
民宿は緑に覆われた川縁にある。早朝の空気を味わいながら、まだ眠る川辺を歩いた。

五月はもう季節酣を迎えているが、早朝はまだひんやりだ。目覚めたばかりの緩んだ体を、気持ち良く引き締めてくれる。五月晴れの空に朝日が昇ろうとしていた。緑の川辺は朝露を隅々に蓄え、しっとりと靄にかすんでいた。「長靴を履いて来て良かったね!」釣人と少年、相棒の長靴は、びっしょりと濡れた。さあ、「絞りたてのオレンジジュースで目を覚まそう!」釣人恒例の挨拶。今朝はスペシャル企画がある。。超小型「 BOSE MusicMonitor 」を準備補強して来た。これで、釣行時に良質の音でクラシックを聞きながら、朝の穏やかな時間を楽しめる。自然に目覚め、朝聞くモーツァルトは気持ち良い。探求成果がひとつ実を結んだ。


三人の金星

JUGEMテーマ:日記・一般

三人の金星 

五月の暑い昼、青空に入道雲が立った。突然の雨が降り止むと、再び太陽が顔を出した。
セーヌに、降る雪の様な、夢のハッチが始まろうとした。野生の宝石がその姿を現した。

川に近づいた頃、釣人は青空に立つ見慣れない入道雲が気になった。釣着に着替える際、「カッパ」を用心の為に背中へ入れておくように注意を伝えた。この青空に、まさかの豪雨が降った。夕方に雨が治まると、太陽が再び暖かい笑顔を見せた。夢に描く様な、メイフライのスーパーハッチ(集中的な羽化)が始まる気配が伝わって来る。魚達がまだ跳ね始めない、少し前に、釣人のウェットフライを結んだラインに、微かな「何か」が伝わった。見逃してしまう様な、小さく、しかし、緊張感に満ちた魚信だった。釣人は注意深く、糸手の親指と人差し指のテンションを緩め、竿手は少し上げ、 45度でホールドした。緊迫の時間がスローモーションの様に過ぎて行く。少年はただならぬ気配を感じ取り、釣人の傍へ歩み寄った。その魚は、決して走らず、草の中へ、石の周りへと、糸を巻きつける様に、底へ底へと体を沈めて行く。「デカイぞ!」釣人は落ち着いて言った。「丁寧に!」、相棒が少年の言葉を繰り返している。釣人は弱くテンションを保ちながら、糸を緩め、物陰から誘い出しながら、遂にその魚を流れの中に引き込んだ。「贈り物、体ごと受け止めたよ」。釣人は礼を言い、金星を川へ戻した。


約束の空へ

JUGEMテーマ:日記・一般

約束の空へ 

メイフライ Mayfly:蜻蛉目(Ephemeroptera)カゲロウ。幼虫から蛹を経ず、亜成虫→成虫へ。
不完全変態する水生昆虫。卵→ ニンフ(nymphs)→亜成虫(subimago)→成虫(imago)。

水生昆虫、特に毛鉤釣りで登場する名前は、カタカナが多くなってしまう。独学を続け、本を読み探求する場合は、面倒でも、カタカナと合わせ正式アルファベットも記憶しておく必要が生じて来る。若い釣人諸君には独自で正式スペルを調べてくれる事を期待する。さもなくば、文面上、読み続けられない書面となってしまう。カタカナ使用をご了承願おう。さて、メイフライのライフ・サイクルは水面→水中→水面→空中→水面とサイクルする。交尾後に雌は飛びながら、あるいは水表面を漂いながら産卵する。卵は緑色、灰色の小塊で水底で固定される。卵は2週間程度で幼虫(ニンフ)にかえる。幼虫は何度も水中で脱皮しながら成長を続ける。やがて冬を越え、春を待って、幼虫はイマージング・ニンフ(羽化のために水面へ泳ぎ上がる幼虫)となり水面へ向かう。水表面に達した幼虫はフローティング・ニンフと呼ばれ、ウィングパットが割れ、たたまれた翅を立たせながら、水面で脱皮する。脱皮を終えたダン(亜成虫)は水表面を漂い流されながら翅が乾くと飛立って近くの樹枝にとまる。やがてダンは樹枝で最後の脱皮を終え、透明な翅を持つ成虫(スピナー)へと変態する。雄の成虫は群れをなし、空中を上下に翔ぶ独特な飛行ダンスで雌を呼ぶ。雄の群れに飛び込んだ雌は、相棒を見つけ出すと、つがいで群れから離れて交尾する。交配後、雌は水面あるいは水表を漂いながら水中へ小塊の卵を産み落とす。やがて、交配と産卵を終えた雌雄成虫は4枚の翅を水面に広げ(スペント)、絶命する。カゲロウの成虫は、口が退化されて無く、消化器官も持ち合わせていない。この事が成虫の短命に繋がり、カゲロウの「はかなさ」として伝えられている。説明を終えると、釣人は少年へ尋ねた。「待ち構える鱒の眼前を生き延び、約束の場所は、どこだったのだろうか?」。少年は、カゲロウが飛び交う空を見上げた。寅さん曰く、『恋する二人は決して腹など空かない!』との事だ。住み慣れた水中を発ち、生涯数日の空で踊る。


「メイフライ」の日

JUGEMテーマ:日記・一般

「メイフライ」の日 

メイフライ:蜻蛉(カゲロウ)多種の中で群を抜く大型種。春〜秋、五月に集中羽化する。
カゲロウ全種をメイフライと呼ぶ場合もあるが、「五月蜻蛉」と大型一種を指す場合が多い。

長年毛鉤釣りを続けていると、思い出の日や場面が、アルバムの様に重なってくるものだ。記憶は釣人の中に蓄積され、覚えきれないものから順繰りに消えて行く。遣り繰り工面して何とか調達した待望の釣り具ですら成長と共にその品を変え、熱情で巻き上げた筈の毛鉤でさえ、月日と共にその輝きを失って行く。その点、千変万化の自然の営みは、常に想像を遥かに超える新鮮な気配を湛えている。釣人は少年と相棒を招き寄せた。川辺は五月酣の「メイフライ」が群生して、時を待っていた。今夕、どんな一期ー会を見せてくれるだろうか?


セーヌ上流釣行 2011年 5月

JUGEMテーマ:日記・一般

セーヌ上流釣行 2011年 5月 

川閉め以来、暫し別れたセーヌ川上流 V村。春の解禁を待ち、待望の釣行が適った。
野生鱒とオンブル(グレーリング)が共存するこの流域の毛鉤釣り解禁は、5月からだ。

4月にキューバより戻り次第、仕事に専念したが、春恒例ブルターニュ釣行は適わなかった。若干の時間切れ、釣行余裕は生じなかった。残念ながら、春一番の遡上(ファーストラン)、アローズや大西洋鮭(アトランティックサーモン)はもう遡り去ったと思われる。痺れ切らした少年は、毎晩、釣人の家に毛鉤箱持参で訪れた。「お待たせした。二泊三日でセーヌ上流へ行こう!」仕事段取りを終えた釣人と相棒の一声で決まった。カゲロウ踊る酣の季節だ。


キューバ 「喜一郎へ捧ぐ」

JUGEMテーマ:日記・一般

キューバ 「喜一郎ヘ捧ぐ」 

キューバを去る朝、早起きして海へ行った。竿を使わない、糸だけの釣りを見届けた。 
道具に縛られぬ「一心同体」の釣り。聢と、その釣り技の真髄を見極めさせて貰った。

釣人はゆっくりと肩を回した。沢山のものを見せて貰った。いよいよ、飛立つ時が来たのだ。「アディオス アミーゴ」。「さらば!喜一郎」。何時かパリのサン・ルイ島、釣具店「毛鉤の家」(La Maison de la Mouche: 1, Bd. Henri IV 75004 Paris)へ来てくれ。店の亭主に Nobi の親友だと告げて貰えば、すぐに連絡してくれる。もしも不可能な状況にあるなら、見守っていてくれ。お前の好きだった曲、「石川セリ・八月の濡れた砂」(←左クリック)を残して行くよ。


キューバ 「海に祈る女(ひと)」

JUGEMテーマ:日記・一般

「

キューバ

其の女(ひと)はケーキを体に擦り、残りをサンティアゴ・デ・クーバの海へ捧げた。
もう一人は何かを語り、掌の花をハバナの海に落とした。二人は確かに祈っていた。

釣人と相棒は、キューバに来て、女性の「海に祈る」姿を見届けた。釣人は、インドで見た「湖での祈り」を思い出した。やはり、女性が祈る姿だった。「海/mer」や、「水/eau(x)」は、仏語では共に女性名詞として扱っている。確か、スペイン語も、海へ愛情をこめて「ラ・マル」と呼び、女性として扱っている筈だ。女性が「女性」へ祈っている訳である。何故かその事が釣人の心を穏やかにした。「母」から生まれた子供が、助けを求めて祈る。女性は戻るべき場所を知っている。喜一郎、男は何時か「母」から離れ、やがて其れを守ろうとする。「チェ」は何に祈ったのだろうか?『もし私たちが空想家といわれるならば、救いがたい理想主義者だといわれるならば、できもしないことを考えているといわれるならば、何千回でも答えよう。「その通りだ」と。チェ・ゲバラ』。聞いておくべき事が、沢山あった。今になって気付いたよ。


ハバナ 「二つの音」

JUGEMテーマ:日記・一般

ハバナ 「二つの音」

ハナナ 「二つの音」 

カサ・デ・ラ・ムシカ(Casa de la Musica):市外ミラマール地区にあるライブ・スポット。
「市内にも同店はある。市外ミラマール店がより良い」、宿マネジャーのお墨付きを貰った。

釣人は鏡前で櫛を通した。相棒も部屋のスペースで、支度を楽しんでいる。今晩の二人は、久しぶりに「都会暮らし」に戻ろうとしていた。相棒の香り一吹きも完了し、夜の街へと出発。意外なことにタクシーは閑静な市外住宅地で止まった。サルサのライブ・スポットは、昼間は音楽教室として併用されているそうだ。とは言え、夜のスポットらしく、横に開演待ちの時間を過ごす別店「飲みバー」が準備されている。夜 10時からの開場だが、演奏は深夜前から始まり、朝方 4時頃まで続けられる。場内は広いステージに眩しく楽器が並び、前に狭めなダンススペースがある。踊り場は、少々窮屈なほうが、盛り上がりが伝わるのだ。深夜直前に演奏が開始した。さすがキューバの首都、ハイグレードな演奏で都会的だ。歌手が現れ、踊り上手達がサルサやアフロで踊り始めた。甘いマスクでライブ曲を歌う若い歌手は、場内の女の子を完全に掴んでいる。歌、踊り、ルックス、どれを取っても輝いていた。ヨーロッパへ連れ出したら、旋風を起こしそうなプロ(玄人)芸人だ。喜一郎、僕はこの光の中で、旅中に出会った「二枚の絵」を思い浮かべていたんだ。「ふたつの音」が聞こえた。ひとつは激しいボリュームで鼓膜を振動させ、もうひとつは衣擦れの様に微かなささやきの声だ。その声は『われわれはみなひどく遠いところからやって来た ... 』、と。釣人にはそう聞こえた。相棒は瞳に星、曲が気に入り、テーブル下でリズム自主トレ中。「123 イッ!, サッサッサッ息!」。


calendar
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< May 2011 >>
sponsored links
selected entries
categories
archives
recommend
links
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM