オンブル:「Ombre」仏語で影と呼ばれる野生魚。脂鰭(あぶらびれ)を持ち、毛鉤を追う。
背鰭を広げると美しい鼈甲(べっこう)模様が現れる。おちょぼ口だが引きの強い好敵手だ。
共に毛鉤を追う川魚でありながら、鱒とオンブル(英名:Grayling)には、その性質に面白い程の違いが見受けられる。釣人は少年に説明した。「発見と同時に逃げ去って行く野生魚、それは鱒だろう。ゆっくりその姿を観察させてくれるならオンブルと思って良い」。オンブルはそう簡単には逃げない魚だ。ところが、安全の確認には随分と厳しい吟味眼を持っている。「鱒は寄り方が勝負、オンブルは毛鉤の選択が重要となる」。捕食の様子はどうだろうか?鱒はストレートに食い付いてくるが、オンブルは背面跳びの様なスタイルで、反転しながら、良く毛鉤を観察の上、流れ去るぎりぎり後方で吸い込む様に追い食いしてくる。毛鉤交換も逃げずに定位したまま待っていてくれるので、知恵比べの好敵手と言われている。一般的な作戦は、ウェット派、ドライ派共に、極細の超ロングティペット(長い先端釣り糸)。米粒大の極小ニンフ(模擬幼虫鉤)、ドライ派には深紅のボディーに白色CDC(鴨尻毛)ウィングなどの小さな毛鉤が使われている。釣人は特別な作戦なしに小さ目の鱒用毛鉤で、小型オンブルとは出会っていたが、大物良型を目指す場合は、的を絞った作戦が必至となる。セーヌ上流 V村での良型オンブルが潜む「隠れ家」は既に見つけ出してある。石灰石と火打石の砂利で白く透ける深い淵。底に微かな湧き水が認められる、水通しの良い流れだ。釣人と少年は、目標の対象魚に的を絞り込み、探求の知恵を練っている。流れは、二人に宿題を手渡した。