「釣り小屋」は川縁に在るだけで心和む。何時か釣人の傘となってくれるものだ。
少年は一目散に川へ駆けた。あの朝見つけた「その小屋」を、 K君に見せるのだ。
来客と連れ立ち、取って置きの釣り宿を訪れた。その館は、以前、少年の毛鉤釣りデビューにも一役買ってくれた「隠れ館」だった。少々贅沢であったが、広い敷地内には河川も流れ、記念すべき祝杯には持って来いの余裕を湛えている。釣人は、「少年の朝」を思い出した。何時もになく、一番に起きる。朝食前に庭の川見に行った少年が、息弾ませて帰って来た。川縁に小さな納屋を発見したそうだ。「小文字で la maison de la pecher(釣り小屋)て書いてあった!」。それは少年のデビューを飾るに相応しい新発見だった。その日、少年の初鱒が釣れた。釣人と少年はK君のデビューを約束した。K君の夏休み、第 1ページ目に、鱒は存分に跳ねてくれるだろうか?その夜、釣人は、「ありがとう!」と祝杯をしみじみ味わった。K君 7才、乾杯が許される迄、後 13年。「釣り小屋」には、頑張って貰わなければならない。