花より団子

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花より団子 

OMBRE の解禁日まで竿を持てない釣人の前に、野生鱒が悠々とその美しい姿を現す。
流れに定位する野生児を見つけると、釣人は反射的に胸ポケットの毛鉤箱に手を添えた。

今日は川見だから(OMBRE の解禁日まで待たねばならないので ... )と、川辺を歩きながら魚を探す。竿を車に残すと三人はまったくの丸腰で上流へと向かった。少年は口笛を吹き、相棒はバードコールを鳴らしながら、久しぶりに透き通る水音を楽しんだ。偏向メガネをかけた釣人が二人に合図を送った。「良型の野生鱒が流れに付いている」。モードは一転して、釣人三人組に急変する。半年振りに見る野生鱒の流れに付く美しい動きだ。反射的に毛鉤箱に手を添えたが、暫くその動きを見詰めていると、昂ぶりは穏やかになった。釣人は少年の肩をそっと叩き、少年は相棒に目配せした。会話は必要なかった。「野生鱒が美しい!」。三人は同じ事を感じている様だ。清流に付く魚を見る度に、釣人はいつも思う事があった。「毛鉤をもう少し薄巻きにしよう。重さのない自由な毛鉤。毛鉤の中に、流れを通したい!」。


川見

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川見 

セーヌ川上流部 V村。その湧き水には、鱒と共に「OMBRE」(グレーリング)が共棲している。
「OMBRE」は春遅くに産卵する。毛鉤を追うので、この村での毛鉤解禁は五月中日を待つ。

産卵を終えた鱒川の解禁は、フランス全域に渡り、三月中日となっている。セーヌ川上流にある我等が釣場の V村もこの通例に従い、セーヌの流れが鱒釣りに開かれる。村の釣人は待ちに待った解禁を、餌釣りやルアー竿を持って、祝春日と楽しんでいる。ところが、毛鉤釣りは五月の「OMBRE 解禁日」迄、チョットマッタ!なのだ。「OMBRE」は毛鉤は追うが、ミミズや小魚、ルアーは追わないと言うのがこの村の結論だ。野生種の「FARIO(鱒)とOMBRE」がこの村の流れには共棲している。昔と比べると、大型の「OMBRE」が極端に減ってしまった。「たぶん将来、このルールは見直されるだろう」。釣人はそんな予兆を感じている。この村の流れは、すぐ先の上流部に湧き水の源泉を持ちながら、水量が豊かで、上流域に珍しく遡上中の鮭が十分に隠れれる程の深い淵を多数有している。清水を湧き上げる浅瀬の砂利場には、夢を託す「鮭の産卵床」として、貴重な環境が揃っている。三人は川を見にやって来た。


早春の流れ

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早春の流れ 

寒さ厳しく雪の多い冬が過ぎた。早春の流れは、山が蓄えた芳醇な水を湛えていた。
水はまだ冷たかったが、新鮮な酸素をたっぷりと含有する腰のある流れだった。

ウェーダーに着替えて沢へ下る。少年は準備が早くなった。「随分早くなったなァ!」釣人が褒めると少年は照れた。「長靴付ウェーダーだもん、簡単さ!」。釣人と相棒は足回りの安全を求めてシューズ別式だ。一昨年の思いも寄らぬ転倒を期に、釣人はいよいよシューズ別式に切替えていた。履き替えにやや面倒だが、流れの歩きが確かに安定する。「紐はしっかり二重結びだよ」釣人は相棒に注意した。「体が慣れる迄は、乾いた石を歩いた方がいい」。恒例の安全注意が終わった。釣人は静かに息を吐いた。久しぶりの流れが、心地良く脹脛(ふくらはぎ)を押さえ込んで来る。早春を誘う!釣人の毛鉤は、ゆっくりとターンを開始した。久しぶりに存分に遊ばせて貰ったが、三人揃って釣れなかった。空振り三振からの出発だ。


民宿の朝

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民宿の朝 

朝食前に庭を散歩する。自然公園として守られた環境の空気は、さすがに最高だ。
風や鳥の歌、流れの声を聞きに来た。今、自分が森の木々に見つめられている。

テントを張って自然の懐で休ませて貰った訳ではないが、都会暮らしの三人は、民宿での朝食前の散歩で十分に自然の息吹を肌で感じ取れた。昨晩は輝く星の鮮明さに少年と相棒が溜息をついた。今朝は木々の風歌に孤独すらを感じ、朝食が準備された暖かい民宿の台所へと駆け戻った。釣人はそんな時間のすべてが嬉しかった。絞りたてのオレンジジュースがしっかりと目を覚ましてくれた。少年はチョコラでパンを平らげ、相棒は紅茶で民宿自家製のジャムを味わう。釣人はコーヒーの香りで何時もの自分を取り戻した。自分達の持っている物で何とかやって行こう。「自分の出来る事を丁寧にやってみるんだ」。さあァ 、川ヘ行こう!。


自然公園の民宿

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自然公園の民宿 

民宿の棚にはトレーの木枠を利用した額にほのぼのとした絵がはめられていた。
落葉と針葉樹が入り混じり、起伏ある山間風景は、まさにモーバン自然公園そのものだ。

農家の民宿がお気に入りだ。釣具やウェーダー、雑多な荷物の運び込みが楽ですっぽりと全てを収めてくれる。工夫を凝らした手作りの素朴な家具や飾り物は何よりも勉強になる。暖炉があれば最高なのだが、今回は残念でした。それでもその土地の匂いを嗅ぎながら、庭を楽しませて貰い、自然公園の空気を満喫出来る。森の中で、暖かいお風呂につかれるだけで元気百倍を頂ける。「可愛らしい絵がはまっているよ!」相棒が棚に置かれたトレーに見入った。トレーを利用した額が、冬の農家を暖かく包み込んでいる。釣人と少年もすっかり感心した。釣人には再会の春であり、冬を越えたこの土地の人達には何よりも待ちに待った暖かい春の訪れを感じさせられた。「小ぶりのオレンジ・パートリッジが良く似合いそうだ」。


山間の流れ

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山間の流れ 

解禁早々の流れはまだまだ冷たい。なるべく開けた陽の当たる「弛み」を探す。
小春ちゃん、何処だ?やんちゃなタッコン、走ってくれ!毛鉤が流れに揉まれて戻って来る。

途中、餌釣り師と出会った。「毛鉤かあァ 〜。まだ寒いよ!」、挨拶代わりにニッコリ余裕の笑顔をくれた。釣りキチは其々の夢を抱いて流れにやって来る。用具や釣法に多少の違いがあっても、その腕前は隠し切れない。上手い釣人程、滅多やたらにアドバイスはくれない。人の楽しみに口を挟まないという職人気質は、上級者によく見受けられる証だ。それでいて何かを尋ねると、言葉少なく的確に答えてくれる。「叔父さん、今日の流れにはどんな毛鉤がいいですか?」釣人はストレートに尋ねてみた。「若い頃、ニンフ(幼虫の形を模した毛鉤)を 3つ付けて釣っていた事があるよ」とニッコリ笑っている。「ニンフ 3つかあァ ... 」釣人と少年が目を丸くした。「ありがとうございます!」。釣人は川辺を歩くのが静かで早い。何時の間にか餌釣り師は消えてしまった。山間の流れには、独学の釣法があり、面白い人がやって来る。


鱒釣解禁 2010

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鱒釣解禁 2010

春の訪れと共にフランスの鱒川が開かれた。この日を待った釣人達は清流へと足を運ぶ。
新春に孵化した幼魚も子鱒の風貌を現し、野生鱒に加わって清流の中で育って行く。

「数日遅れを取ってしまったが、僕等も再会の日が適った」釣人は、アクセルを踏み込んだ。目的地は釣人が名付けた「仏国のYosemite」。パリ南方 210kmモーバン自然公園の広域を流れる二本の鱒川、その渓流部だ。「この自然公園と触れ合って生きて行きたい」。若き日に抱いた夢を、釣人は少年と相棒と共に少しずつ分ち合う事にした。我侭な熱情から、この自然公園域にある水車小屋を不動産屋の案内で探し続けた時期もあった。遥か昔の話だ。自然に諭され、釣人は相棒とパリで住み続ける事に決めた。「流れは氷の様に冷たいよ!」少年が春の水を称えた。酸素を豊富に含んだこの清水を愛でる為に、今日、君を訪れた。「元気だったかい?今シーズンも宜しく!」。釣人は少年と相棒を流れ正面へと招き寄せた。


毛鉤の解体

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毛鉤の解体

先週末に川釣りが解禁となった。川開きと共に、最新作の毛鉤を巻いて臨みたい。
世話になった毛鉤を解体すると、昨年の情報がビッシリと詰まっていた。

半年の月日とは言え、冬場禁漁中のささやかな成長は日々探求の賜物だ。開幕の準備で毛鉤箱を確認すると、昨シーズンの最新型でも、アレッ !とかウーッムと思い浮かぶ箇所が見えて来るのだ。善戦空しかった毛鉤や大活躍で傷ついた毛鉤を解体して新しく巻き直す。昨年迄の釣人の誠が、一瞬で分解され解体される。「毛鉤のDNAだね!」、裸になって行く釣人の毛鉤の残骸を見て少年が言った。「毛鉤の解体は、言い換えれば、釣人自身の解体でもあるんだよ。学んだ情報を壊してより新しくする。解体の途中で、見逃した工夫や新しい発見にしばしば遭遇するからだ」。分解は新鮮な残像を伴う。釣人は全てを脱ぎ去った針を再びバイスに取り付けた。冬間見た各々の釣夢に、フレッシュな命を吹き込もうとしていた。


都会暮らし

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都会暮らし 

自然児であっても都会生活が長く続くと、随分モダン・ライフが身に付いてしまう。
我に返ると、半年間のご無沙汰でした。翼を広げる前に、準備運動から始めておこう。

要領を掴むと、冬場でもシンプルにやって行けるのだろうか?冬を越す為、春を迎える為にと準備仕事が年と共に増えて来た様に感じる。「いい風だなァ .. 。旅に出よう!」と若い時分は全く無防備だったが、今は準備に時間が掛かる様になった。やはり都会暮らしと山・川での時間には違いがあるからだ。体の動きや使う筋肉も全く違って来る。都会暮らしの三人組は釣行準備を開始した。去年との違いが、成長を意味する。身軽に動く為の仕込みが勝負だ。「毛鉤の補充と若干の筋力トレーニングは欠かせない」釣人は少年と相棒に宿題を出した。


旧型良品

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旧型良品 

皆同じ様な顔つきだが、個性其々である。共に月日を乗り越えて来た相棒達だ。
縁に恵まれ、時を過ごす。へこみや傷つきながらも、今日も釣人に語りかけてくれる。

エリートではない自分に付き合ってくれる気のイイ奴がいる。ややこしい事はあまり言わず、頑丈な相棒達だ。中には生まれながらに弱い奴もいるし、見掛けに寄らず美声の持ち主や口笛の巧い奴だって混ざっている。箱入りのアンティック・タックルと呼ばれる名品ではなく、あくまでも皆、「旧型良品」の現役リールだ。川開きを前に、釣人は少年と共に釣具の手入れ直しに取り掛かった。「どれにシルクラインを巻いてやろうか?」釣人が少年に頭を掻く。「下町風の色合いが可愛いかったり、渋目の色が良かったり ... 」。ラブレターの書き始めだ。


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