川風

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川風 

かつてセーヌ川は大西洋鮭が豊富だった。20世紀初頭から工場生活排水で汚染が始まる。
1920年、セーヌの鮭は姿を消す。そして、水質改善で川が蘇ると鮭が再び帰って来たのだ。

川風が嬉しかった。蘇ったセーヌの水質、鮭のニュースが嬉しかった。相棒、少年、釣人の三人組は居ても立っても居られずに、パリより下流部のセーヌ川辺に飛んで来た。先日、釣友から「セーヌ川へ大西洋鮭遡上す!」の驚くべき吉報が届いた。情報を整理すると 、工場生活排水などの影響で完全に姿を消し去った大西洋鮭がおよそ 80年ぶりに再びセーヌ川に回帰しているそうだ。2009年鮭遡上予測数は 1000匹を越えるとの声もある。エッフェル塔前のセーヌでも遡上鮭の姿が確認され、いよいよセーヌ川の水質がきれいになった「生きた証拠」と話題になっている。人間が汚してしまった川の水質を浄化施設で回復させるまで、気付いた人間は15年の年月を必要とした。そして汚染物質の除去にやっと効果が現われ始めた。60年代〜 70年代はセーヌ川は仏国で最も汚れた川の一つと指定された。これで汚名挽回へと向かうだろう。あと十年もするとセーヌ川での鮭釣りも夢ではないそうだ。コイやウナギと言った水質汚染に比較的強い魚 4種だけを残し、1995年まで年間 300〜 500トンもの魚がセーヌ川で死んで行った。奇蹟の回帰を遂げた大西洋鮭以外に 32種に及ぶ魚が現在のセーヌ川で育っているそうだ。「失敗を認識する勇気と判断力、対策の立ち上げ、改善への長期間に及ぶ持続力」、手掛けて来た関係諸官の方々に心からご苦労様でしたとお礼の気持ちが込み上げて来る。僕達には何が出来るのだろうか?「この教訓は皆で大切に記憶しておこう」。自分達の生きる街を流れる川、セーヌは水質と言う底知れぬ魅力を取り戻した。


俊足願望

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俊足願望 

子供時代は虫取りから始まり釣りで過ごした。中学になるとサッカーから運動に目覚めた。
球技系スポーツに興味が沸いて来ると、「俊足」への憧れが次第に強く芽生え始めて来る。

中学から大学時代は殆どの時間をサッカー部活練習で過ごした。才能に特別恵まれていた訳ではなかったが、関東大学一部リーグ「大学蹴球部員」として 5軍、6軍あたりで球を蹴っていた。スタメンは遥か雲上の星で、冬期帰郷のスキー以外は殆どの時間を球を追いかけて走っていた。やがてシアトル(アメリカ)へ渡り、人工芝での「絨毯サッカー」を気楽に楽しんだが、徐々に生活からサッカーシューズは遠退いて行った。シアトルでの大学生活は自活アルバイトでサーバイバルに何とか乗り切っていた。そんなある日、休日にダウンタウンの釣具店の前を通り掛った。何の事はない休日のその時が結縁、運動青年は「海のサーモン」と結ばれる。アメリカで自活する一人の日本人学生が、子供時代を過ごした時間へと回帰して行く事になる。運動青年は釣人になった。パリに渡り、同様の学生生活を続けるが、サッカーシューズは何時の間にか「鮭釣りの夢」に変わっていた。職業を替え、J.M.DUBOS氏へ師事が適って以来、毛鉤釣り探求の道を目指している。太腿も随分細くなり、もうサッカーシューズを履く事はないだろう。釣人は少年と雲の動きを眺めながら、若き日の「俊足願望」を懐かしく思い出していた。「今日の雲は俊足で秋山へ走って行くね」夏休みが終わろうとしていた。


流木の扉

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流木の扉 

扉には流木の感触を残して見た。都会の実生活と川辺の時間を繋いでくれるだろう。
木肌は雌キジの胸毛色位に ... 。作業中の空想が素材の面に少しずつ顔を現して来る。

500℃の熱風焼き、削り、磨き、着色。再度、削り、磨き、着色。仕上げ磨きで手順を終える。白ペンキの殻を脱いだ扉が自らの木肌で呼吸を始める。「かたつむり」と言われた釣人の仕事だが、なんとか扉に個性ある表情が現われて来た。釣人は少年の到着を待っていた。計画表のない自宅内装工事にまたひとつ顔が出来上がった。「ここで一度手順を収めて見ようと思うんだ。」釣人は少年に感想を聞いた。「川を走る流木の感じ!いい肌触りだよ」少年の丸目に釣人は一安心した。言われて気付くと、手順の中で何処かに「流木の馬」を追いかけていたのかも知れなかった。「部屋が完成したら、この扉と対をなす毛鉤製作用の小机を作ろうと思うんだ」釣人は将来の計画を少年に漏らしてウィンクした。シルクラインが机横で光に透けて気持ち良く収まってくれる作業台だ。其の頃、机の上では分厚い老眼鏡が何より重要な仕事道具になっているだろう ... 。釣人は少年の感想を聞きながら、一人で頭を掻いた。


朱点

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朱点 

石畳の隙間に根を張り、ひと夏の花が咲いていた。与えられた環境で生きる宝石達だ。
大自然の中に散りばめられた朱点。清流の鱒は祖先から授かった野生の証を身に纏う。

新鮮な発見は何よりもの活力源だ。普段とは違う未知の美しさに惹き付けられる。思えば初めて野生鱒を掌で感じた時、まだ幼いその魚体には思いも寄らぬ高貴な「朱点」が散りばめられていた。流れに身を隠しながら、小さな縄張りを守り、大自然の中で美しく生きるきらめきに感動を覚えてしまった。清流へ返さねばとする掌が震えた。いまだに乾いた熱い手では直接触れぬ美しい宝石だ。釣具店から竿を握りしめて家へ駆けた日。雨の中で上げた初めての一匹。思い出すとまだ紅顔の頃から三十数年程、この釣りと共に月日を過ごしている。有り余る毛鉤を巻き、キャスティングや独学探求を続ける。お蔭で、新鮮な発見には事欠かない人生が過ごせている。「石畳に花かァ ...!。朱色に紅色、野生鱒の朱点にも、川や流れで多少の違いがあるネ」、釣人は少年に話しかけた。少年は釣人の話を聞きながら、踏み潰さない様に一歩一歩、慎重に花に近づいた。二人はまるで川の流れを歩く様に動いていた。


真夏のフラメンコ

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真夏のフラメンコ 

合板の床板に黒いシューズが小気味良い音を刻む。底力ある手拍子が追い掛ける。
真夏になるとサンジェルマン・デ・プレ広場に若いフラメンコ・ダンサーの一団がやって来た。

釣人はウィンドーの前で足を止めた。強い日射しに夏の記憶が蘇った。十年一昔と例えるなら、昔々半のサンジェルマン話だ。教会前の石畳の開きは現在よりも広場としての「形」を示していた。夜になると大道芸人の「火吹き男」や「詩を吟じる男」、何やら訳解らぬ事を喋りまくる哲学者風のフランス乞食、「鎖を切る男」など ... 、まるでフェリーニ映画のワンシーンから抜け出して来た様な彼等が月明かりの下でカフェテラス前を回っていたものだ。夏が盛りになると広場片隅にベニアの床板が敷かれた。フラメンコ・ダンサーの若者が流れてやって来たのだ。個人的な好みだが、フラメンコはマドリッド風の華麗なものより土の匂いを感じさせるアンダルシアのリズムが好きだ。夏に流れて来る一団はアンダルシアの若いダンサー達に違いなかった。彼等の踊りからは紛れもなく焼き尽くす灼熱の太陽と土の匂いが感じられたからだ。無料劇場と化す広場で夏の夜は瞳を輝かせたものだ。その後、カフェテラスが増設され、広場が手狭になると共に大道芸人は減っていった。フラメンコの一団は夏になっても広場に訪れなくなった。時代は移り、街は変わる。コースを変えた渡り鳥が再びやって来る事がある様に、いつか時の流れが彼等を呼び戻してくれる事もあるだろう。それまで夏の思い出は心の奥に留めておこう。「くちばしの黒い鳥。まだヒヨコかなァ?」。どうやら少年は、アンダルシアのリズムに頭を殆ど動かさず迫力で踊る親鳥の姿をまだ見た事がない様だ。


青色の小花

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青色の小花 

バカンス期の鉢植えは留守宅でかなり厳しい環境を生き延びながら給水を待っている。
珍しくこの時期に活き活きした青花が窓を飾っていた。恵まれた環境の植木達だろう。

夏仕事と埃まみれの格闘を続けている。計画表のない自宅内装工事を何処までこの夏に進められるか?長年の宿題はいよいよ体力との勝負時を迎えている。そんな訳で、痺れを切らした少年が日参して新しい発見を聞かせに来てくれる様になった。「いい物を見つけたよ。散歩に出よう!」少年の誘いで一服入れる事にした。道すがら青色の小花の窓を見つけたそうだ。少年の心尽しに感謝して励まされてみる事にした。少年は釣人が鱒川の縁に咲く小青花が好きな事、それは木漏れ日の溜まりに咲いている事を良く心得ていた。釣人は少年の指差す窓を、日溜まりの流れを思い浮かべて暫し眺め入った。「ありがとう!お礼に友人からの取って置きの最新情報を教えてあげる」。「セーヌ川に野生鮭が遡上しているらしいんだ。その数は何と 1000匹を越えているらしい。放流の記録はなく、水質向上による自然産卵らしいんだ。」釣人は少年に驚くべき情報を伝えた。「何年でも待つよ!セーヌに野生鮭がやって来る日を!」。少年が青年へと育つ頃には内装工事も完了するだろう。釣人は鮭が遡上するセーヌ脇にはきっと小青花が咲いてくれるだろうと空想した。 (情報連絡 N.Tさんに感謝)。


隠れ小路

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隠れ路

Passage:通り抜けれる小路。道に面する扉を押すと中庭の様な静かな通りが隠れていた。
バスティーユ地区の片隅にある「Passage L'homme」。息抜きに良く通りすがる小路だ。

自宅アパートから 10分程の徒歩範囲は大切な息抜き散歩圏内だ。仕事の気分転換や目休めを兼ねて区切りが付くと歩きに出る。お気に入りの道順を廻って一服する。人通り少ないアトリエ造りの小路は街中の生活では貴重な存在だ。石畳や緑葉が昂ぶった神経を穏やかにしてくれる。毛鉤釣りの探求を独学で続けていると、時々袋小路にはまり込んでしまう事がある。そんな時、自分を取り戻しに悠々と歩ける 「Passage」は新鮮な酸素の補給には持って来いだ。「大型の鱒や流れに留まる鮭は水深ある淵の傍にその姿を現す事が多い。緊張から開放される隠れ場所を常に確保しているのだろう」釣人は歩きながら少年に語りかけた。「廻り路も悪くないだろう?」ひょっこり訪ねて来た少年に取って置きの小路を案内した。


夏のシルエット

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夏のシルエット 

8月のパリに 30度を越える夏日がやって来た。高緯度に短い夏が照り付けている。
7月をパリで過ごした街人もいよいよお店を閉めて楽しみにした夏の休暇へ出発する。

夏には黒く深いシルエットが良く似合う。影が深ければ深いほど、灼熱の日射しが短い夏を感じさせてくれる。黒の水着が映える様に、シルエットが一瞬の夏を演出する。久しぶりに肌を射すジリジリ焼きつく様な日射しがやって来た。空を仰ぐと、バスティーユの塔先で天使が松明(たいまつ)を空高く掲げている。上空のシルエットが水面に浮ぶドライ・フライ(毛鉤)を思わせた。「魚は水面を流れるドライ・フライを逆光のシルエットでこんな按配に眺めているのだろうか?」釣人が少年に呟いた。上空でもはっきりとその存在を告げる物がある様に、小さな毛鉤も水面に浮かぶと生き物の影を醸し出すのだろう。過ぎ去って行く物が一瞬深い影を伴った時、たとえそれが瞬間であっても、鮮烈な行動を呼び起こすのか ... ?。釣人と少年は夏のシルエットに何かを呼び起こされた。高緯度のパリに短い夏が通り過ぎようとしていた。


夏の絵日記 (2)

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夏の絵日記 (2) 

「良く食べ、良く遊び、良く寝る」。宿題はほどほどに ... 。子供時代の夏休みを思い出す。
夏の力が全ての物を逞しく成長させる。ゆっくりとしたリズムで休みの時間が過ぎて行く。

子供の頃は学校の宿題はあったものの、自然のリズムに従って毎日が過ぎていたんだなァ と大人になってから気づくものだ。そう思える成長時代を過ごせた事に感謝している。夏休みに聞き慣れた蝉の声はアメリカへ渡って以来、フランスでも耳にしなくなった。土壌や気候が蝉の生息圏外なのだろう。音のしない静かな夏休みが、自分にも何時の間にか自然となって来た。子供の頃苦手だった夏休みの昼寝時間は大人になると問題なく得意となったが、今度は残念ながら許される時間的余裕が欠乏している。忙中閑あり、相棒、少年、釣人の三人組は半日の小休止に飛び出した郊外ドライブで夏草の匂いを吸い込んでいた。釣人は風の中に川音を探したが、実った小麦のそよぐ音が地平線まで広がっていた。少年もふと空に燕を探したが、雲雀の鳴く声が帰って来る。半日の小休止は鱒川へは少し短すぎるのだ。三人は懐かしい夏休みのリズムを思い出しながら、ゆっくりと半日の時間を味わう事にした。


夏の収穫

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夏の収穫 

パリから北西へ 40km程、Pontoise を越えて車走すると地平線を埋める小麦畑が広がる。
春蒔き小麦が夏の収穫を迎えている。小麦地帯は大型コンバインが村の広場に集結する。

仕事の手順で半日の小休止が出来た。釣人は思案の末、夏を眺めにパリ北西部へドライブに出掛けた。「この時期ならまだ収穫直前の小麦畑が見れるかもしれない」。マーカーだらけの地図と格闘しながら相棒がナビしてくれる。少年は半日のパリ脱出に大喜びだ。パリは不思議な街だ。郊外へ 車で30分も走り抜けると田園風景が広がり、フランスが農業国でもある事をりっぱに証明してくれる。大型コンバインや収穫運搬トラックが村の各所に集結している。夏の大掛かりな刈入れが始まっているのだ。「映画のワンシーンの様な地平線を埋め尽くす小麦畑をご披露するわヨ!」相棒は少年に任せてくれとウィンクした。村の広場に待機したトラックを潜り抜けると目の前に地平線が広がった。「うォー!!」、釣人と少年が飛び上がった。パリから 1時間以内のドライブで夏の収穫を待つ小麦の地平線とご対面出来た。「ぎりぎり間に合ったわネ!」、相棒は地図帳を閉じるとお弁当サンドイッチを三人分取り出した。


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