夏至の雛罌粟(コクリコ)

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夏至のコクリコ 

高緯度にあっと言う間の夏至が遣って来た。草花は体全体で最も長い太陽光を吸収する。
雛罌粟:coquelicot(仏語)の鮮やかな緋紅(ひこう)色の花が草原に咲き乱れていた。

『 ああ皐月 仏蘭西の野は火の色す 君も雛罌粟 われも雛罌粟 』  / 与謝野晶子

夏仕事で暫く部屋に篭っていた。高緯度に夏至が訪れ、いつまでも窓外が明るい。気が付くと毎日かなり長時間働いている。昨日は気分転換に相棒と少年を誘い、ロワール川沿いにドライブに出た。古城と豊かな川を眺めながらのドライブコースはすっかり初夏の風景を匂わせていた。最初は麦畑の脇に美しくアクセントをつけるコクリコの花が目に付いた。村道を進むと突然、コクリコの大草原が現われた。三人は夏至に燃え上がる野火に取り囲まれていた。夏前の清々しい青空にコクリコは咲き乱れ、散る花びらが火の粉の様に香っている。三人は体内に夏至のエネルギーを存分に吸い込んだ。季節は夏風と共に初夏へ移ろうとしていた。




シルクラインの手入れ

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シルクラインの手入れ 

基本は使用後の乾燥だ。十分過ぎる程に乾かした後、極少量の専用グリースを指で施す。
グリースを施す際はシルクラインを出来るだけ直線に張り、指で極少量を全体によく伸ばす。

少年が訪ねて来た。散歩道で待ち惚(ぼう)けに痺れを切らして、様子を見に来たらしい。「工事現場だが ... 、入ってくれ!。なんとか寝室の暖炉を終了、今は寝室の窓と格闘中だ。」いつもと違う作業着で釣人が少年に言った。「遂に作り上げたんだね!」少年が暖炉の具合に納得してくれた。少年は足場に気をつけながら隣の居間の片隅に避難した。「アレ!まだ干しているの?」山積みの中から乾燥中のシルクラインを目敏く発見した。「濡れたバッキングラインのリールにシルクラインを巻いたままにしていた ... 。十分に時間を掛けて芯まで乾燥してやっているんだ」釣人が頭を掻いた。「ちょっと触って覚えてくれ。この感触が乾燥 粗OK の質感だよ。そろそろグリースを塗ってやる頃合だ」釣人が少年に説明した。釣人は少年がWホール・テクニックを習得したらシルクラインをプレゼントすると約束していた。「今はシンセティックラインで Wホール・テクニック習得に励むんだ」、「シルクラインは生き物みたいなものなんだよ」、「Wホール・テクニックを正確に身につけたら、シルクラインのシングル投法を教えてあげる」、少年は釣人の言葉を順番に思い出した。「アメリカは若い時に訪れておいた方がいい。出来ればヨーロッパを訪れる前に ... 。」少年の頭の中で以前聞いた釣人の言葉がエコーしていた。「まったくの工事現場だろう!これでも全力で我家の特等席をシルクラインに提供しているんだ。なんせシルクラインは生き物の動物繊維なんだから ... 。」釣人の言葉で我に返ると、少年はシルクラインが窓越し光に透けてキラリと輝いているのを感じた。


水辺の職人さん

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水辺の職人さん 

パリの東西には Vincennes と Boulogne の森が隣接して、其々に鱒釣りの池がある。
止水ではあるが湧き水があり、虹鱒が放流される。都会の脇で毛鉤で鱒釣りが楽しめる。

通常の鱒釣りライセンス+各森の釣り年券を購入すると、 その年の1月 1日〜 12月31日迄 365日毎日でも毛鉤で鱒釣りが楽しめる。川は春 3月中旬〜 秋 9月中旬が鱒釣り解禁となる。それ以外は産卵期を控えた鱒を考慮して禁漁となる。川が閉まった秋冬の釣りは、好き嫌いを抜きに止水の「管理釣り場」のお世話になる以外は方法がない。毛鉤釣りを始めた頃、自活アルバイトの学生時代でまだ車も持てず、釣人も随分とこの池のお世話になった。釣人の好みは水深があり、湧き水の量も豊富で鱒が夏越し出来る東隣の Vincennes 森「 Gravelle 池」が鱒池だった。今だから車で 「Door to 釣り場」で早朝僅か 10分程の道のりが、当時はパスに乗り、森を歩いての 90分コースであった。にも関わらず、思い出してみると熱い時期は年 100日を越える三桁の時間をこの池で過ごした年もあった。今では余り行かなくなってしまったが、毎年森の釣り券だけは買い求めて、竿を持たずに時々引退した初老の釣人の逃魚話を聞きに池見には通っている。新しい毛鉤を巻いた時やムズムズした早朝には、たまに竿を入れさせて貰い、いまだに「お世話になっている」池だ。止水ではあるが川とは違う難しさや技能が試されるし、日の出時、初夏の早朝靄などにはハッ とさせられる
時もある。都会のすぐ脇の池でも朝鴨が飛来したり、野生の鷺( heron)がじっと魚を見据えて狙っていたり、「水辺の職人さん」と出会えるといつになっても早朝の空気に心洗われる。


我家の改造

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我家の改造 

昨年暮れに隠れ家「Dragon」が完成、今年からいよいよ我家の改造へ取り組んでいる。
釣行時にお世話になる農家の民宿や不器用でも風流な「山鳩の巣」をお手本に継続する。

釣人には長年の宿題、「我家の改造」がやり残っていた。日頃は物作りに励んでいるが、決して仕事が速く・上手いと言う訳ではないと自己反省している。長年手掛けて来た隠れ家「Dragon」が昨年やっと完成した。いよいよ腰を据えて「我家の改造」と取り組まねばならないと肝に命じている。夢を語るならば、手作りの物で全てを仕上げて行きたい。完成迄にはまだまだ沢山の工程が残されている。体力が続く間に大掛かりな物から仕上げて行かねば完成には漕ぎ付けないだろう。釣人は夢の設計図を頭の中に描いていた。仕事手を休めて窓を開けると、初夏の風が「川へ行こう!」と誘いかける。釣人は再び仕事へ取り掛かった。作業の中に流れを見出すと、釣人は毛鉤となって泳ぎ始めた。釣人の夏仕事が始まった。

キャスティング練習

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秘密特訓宿 

ノルマンディー地方の小さな納屋を改造した民宿。緑に囲まれた広々とした草原が魅力だ。
扉を開けるとすぐ足元から緑の絨毯が拡がる。三人組のキャスティング強化練習合宿所だ。

昨晩夕食時に相棒から「竿振り練習」を教えて欲しいと驚くべき頼みがあった。釣人と少年は喜んで了解する。相棒は練習量ゼロではあったが、既にシアトル(米国)ではハーリング(餌釣り)で良型の海のシルバーサーモンやキングサーモンを釣り上げ、フランスでの毛鉤竿でも鱒、子鮭、大型アローズを釣り上げている。釣人や少年の奮闘努力の末に何とか掛かってくれている魚を身近で見ている内に、竿を振っていれば魚は必ず釣れると言う独自の推論にどうやら辿り着いている様なのだった。以前、釣人は釣現場で鮭毛鉤竿の扱い方を相棒に教えて見た試みがあった。その際、意図的に 18ftD#12という経験者でも少し気合を入れて振る、重く長い鮭竿を使用した。さすがに初体験の相棒には驚くべき重さで、すぐさまギブアップとなったのだが、これには釣人の長期目標が含まれていたのだった。釣人はその当時から将来相棒用の毛鉤鮭竿は 13ftD#9位が最適竿になるだろうと予測、新竿を手にした時、「この竿なら自由に扱える軽さと長さだと本人が思い込める実感」が何よりも最初のスタート時には欲しかったからだ。今回のブルターニュ鮭釣行で相棒は自分の竿を振り始めた。以前手にした 18ftD#12の鮭竿と比べると自分用新竿( 13ftD#9 )が遥かに軽く扱いやすいと実感してお気に入りとなった。「自分の用具を納得して気に入る事」これが何より大切だ!釣人は少年にウィンクした。鮭用の長いダブルハンドの竿を振った後に、シングルハンドの竿振り練習をすると初心者ほど驚くべき進歩がある。『竿は振るのではなく、自分の操作で曲げて使う。曲げた竿の反発を、波動の様に、竿元を根にして竿先へラインへと伝える』。軽く扱いやすい竿に持ち替えた瞬間こそが、言葉で説明する以上に体で実感出来る好機だ。釣人はノルマンディーに小さな納屋を改造した民宿を知っていた。周りは緑と草原に囲まれていて、朝、扉を開けると、足元から緑の練習場が始まるのだ。釣人は学生時代の合宿を思い出した。相棒のやる気が萎えない内に、三人組はパリに戻る最終日をこの民宿に泊り込んでじっくりとキャスティング練習に励む事にした。絶好の練習環境は快適で気持ち良く、釣人と少年も相棒と共に技術アップの自主トレで過ごした。相棒のラインが少しづつ伸び始めた。

竜頭

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竜頭 

竜頭:竜のあたま。特に、船首に取り付けた竜のあたまの装飾。また、それをつけた船。
ノルマンディー地方、オンフルールの港にバイキングの竜頭船のレプリカが停泊していた。

ブルターニュ鮭釣り最終日、三人組の渾身のキャストでも春鮭は乗って来なかった。遡上鮭との遭遇は残念ながら無かった。「練習は十分に積んで来た。自作の鮭鉤も元気に流れを泳いでくれた。遭遇があれば必ず何らかの手ごたえが伝わって来た筈だ。腕を磨いて、また出直そう!」釣人は少年の肩を叩くと竿を収めた。少年は鮭鉤を毛鉤箱にしまった。相棒は新しい鮭竿の振り心地にも慣れて来た。「帰りはノルマンディー地方で降海性鱒(シートラウト)の川を覗いて行こう。」釣人の提案に二人共「道草、大賛成!」と元気復活の気配だ。釣人は一安心して、静かに流れを振り返った。釣具を積み込んだ車はブルターニュ地方を北上、ノルマンディー地方のオンフルールへ到着。車を降りて港町を散歩するとバイキング船が停泊していた。レプリカではあるが竜頭が迫力の面魂で三人を励ましてくれた。大海の荒くれ男、バイキング達も嵐の海でこの竜頭に励まされながら力の限り櫓を漕いだのだろう。三人組は潮風に吹かれながら同じ事を考えていた。「今晩はレストランで港料理を満腹だ!」。


薄紫

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薄紫 

紫草の根で染めた薄色。日本でも二藍の薄色、紫苑、薄緂などと呼ばれて好まれる。
ブルターニュの農家民宿で麻布に薄紫の刺繍が美しかった。麻花と同色の刺繍だった。

麻畑に花が咲き、 薄紫の花びらが風に散って行く 1日は美しいそうだ。自然の中でコントラストとは一体どの様にして生まれ、感じ取られるのだろうか?自然が織り成す質感や補色のコントラストには驚かされる美しさが潜んでいる。人は自然から様々なものを知覚して、その美しさを共有させて貰っている。釣人には「薄紫」に少年時代の思い出があった。運動会の父兄混合リレーで見た「薄紫」の襷(たすき)の色。それは、一番どん尻を走っていた少年から父兄のお父さんへと手渡された。そのお父さんは渡された襷を肩に通すと、凄いスピードで全力で走り出し、先行する走者を次々にごぼう抜きにすると、風を切る様に一位でゴールインしたのだった。なぜそのシーンが何時までも残っているのだろうか?たぶん当時少年であった釣人が初めて見た素晴らしいランニングフォームであったからだろう。それ以来、このシーンはその「薄紫」と共に釣人の脳裏に深く焼きついている。一般に高貴とか神秘のイメージを持たれる紫色は、釣人にはこの思いも寄らぬ大逆転ドラマの勇壮なイメージとして印象に残っているのだった。風を切り駆け抜けていった「薄紫」は美しかった。釣人の頭の中で、昨日会った鮭釣りの達人が繰り返した『 Sombre 』 の言葉が響いていた。仏語の意味は不必要だろう。何故ならその達人の言葉には、辞書の意味だけではなく、もっと重要な違った響きが込められている様に思われたからだ。言葉は色と同じ様に各自の印象により、固有の意味を持たされて使われる事が多い。釣人は「薄紫」の思い出を込めて、 Sombre な鮭鉤を巻き上げて見ようと空想した。ベッド横の薄紫の刺繍には微かな麻花の香りが漂っていた。

ローカルフライ

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ローカルフライ 

その地方に独特の方言がある様に、其々の川には伝説のローカルフライがあるものだ。
川水の色が反映され、狩猟で捕れる獣毛・鳥毛が使われる。継承される武勇伝だ。

釣人はひとつ上のプール前(関前の溜り場)で車を止めた。、エビ餌釣りの達人を見かけたからだ。この人からは数多くの事を教えて貰った。彼は数年前、釣人の対岸で見事な春鮭を釣り上げていた。「今年もまた来ました」「まだ毛鉤 1本かい?フッフッフ ッフ ... 。」釣人の挨拶に達人は笑顔を見せてくれた。「 今日は2匹上げたよ!」「えっ !! 大きい奴?」「おいおい、鮭じゃないよ。」サンドルだった。釣人はこの達人の笑い方が気に入っていた。亡き師匠と同じ声質の笑い方だったからだろう、心地良い響きだった。この人はこの川で鮭を釣る誰もが認める鮭釣りの達人なのだ。以前 18feet Dの鮭竿 を振っていた時、「ちょっと貸してみろ」と驚く様なキャスティングを披露してくれた。釣人はその瞬間にこの人はエビ餌釣りだけで過ごして来た訳ではない事を直感した。そしてこの人から教えて貰おうと予感していたのだった。釣手を休めて車に戻ると、小箱を持ってやって来た。「川には黒がいいんだ。獣毛だが ... 、」と頭を掻いた。猪の毛だ。「これは子猪の毛でまだ白いが、 大人の猪の黒毛の方がもっと良い。 5〜 6年のものがいいだろう。」昔使った毛鉤を見せてくれた。『 Sombre だ。 Sombre のものが良い』、ゆっくりと繰り返した。齧りつかれながら薄くなった決して華麗ではないこの鮭鉤に釣人は溜息を漏らした。ボロボロになりながら、錆びついた小箱の中でいまだに清流を泳ぐ勇姿を忍ばせている。写真を撮らせて貰うと、「この次ぎの時に 5、6本頼むよ」とウィンクした。こんな所迄が亡き師匠に良く似ている。了解。この夏、凄い奴を巻いて来ますよ !!

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