JUGEMテーマ:日記・一般
記憶の薫りが流れ下って来る。その水流は川の中を限られた立体的な通路で海へ流れる。
遡上する成魚はこのトンネルの様な流れの中を外れないように上流へと登り詰めて行く。
気持ちが昂ぶり、興奮状態であってもその流れを遡るにはそうとうの瞬発力と持久力が必要だ。所々での休息場所が必要となるだろう。天候による水量の変化も旅のスピードを変化させる。海で成長した魚は川に留まった他の魚より何時の間にか大きく育っている自分自身に気付き始める。水深の浅い場所では自分の背鰭が不自然に水面を割ってしまうのだ。それでも上流より記憶の薫りが徐々に強さを増してその存在場所を伝えて来る。川を遡って以来時々感じ始めた肌を刺す様なしみる感覚の水質の中で、その流れは自分の肌を優しく包み込んでくれるからだ。通路の傍にある安全な深みで身を潜め、休息を取りながら遡上に安全な増水を待つ。海で過ごした日々は体内に「海時間」をしっかりと刻み込んでいることだろう。時折昂ぶりを感じる体で、それでも成魚は徐々に幼い頃を過ごした生まれ故郷の時間へと遡って行く。釣人は少年に鮭の遡上を語り、少年は自分の故郷を思い出した。釣人と少年は鮭の一生の旅を学びながら、何時の日か共に記憶の薫りを遡上して行こうと感じていた。