春の妖精

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春の妖精 

春一番の風に飛ばされて来たのだろう。一番乗りの妖精がひょっこりと散歩道に現われた。
植物と虫の両方に溶け込める春服を着て、温かい南南西の風の薫りを運んで来てくれた。

「皆、穴から出ておいで。春はすぐ其処迄来ているよ!」一番乗りの妖精が休憩しながら聞かせてくれそうだ。冷たい北風は南南西の風に押されて過ぎ去ろうとしている。春は確かに近くまで来ている。「花びらの様な服だけど、手足の細さが虫ぽいね」少年は春の妖精を観察した。「手足に緩く巻かれた素材に生き物を感じられる。素材は固く巻かない方がいい場合もあるんだよ」早速二人は勉強を始めた。「顔は余り見えない方がもっと生き物に感じるけど ...。毛鉤ならそう巻く。」釣人の意見に少年も頷いた。毛鉤の場合は生き物の表情を質感や動きで表現する事が大切になって来る。省略出来る部分を除き去り、生き物を感じさせる不可欠な部分に最大限に感情と技術を導入する。植物と虫の間を自由に飛び交う事が出来る要素は一体何処から来るのだろうか?二人は妖精から春の様子を聞きながら、彼女が身に纏った不思議な服を見つめた。妖精の服には毛鉤に使える重要なヒントがきっと隠されている。どうやって植物に隠れ、どんな動きで飛ぶのだろう?少年は彼女の動きを空想した。


若芽膨らむ

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若芽膨らむ 

早い春の訪れは若い動植物には危険だ。未経験の激寒が訪れるリスクはまだ残っている。
日中 6℃、最低 0℃。日出 7:50am、日没 6:19pm。春を感じて、若木の芽が膨らみ始めた。

春の水を吸い上げて、もう良いのだろうか?と若芽が膨らみ始めた。幾度もの春を経験して来た植物ほどゆっくりと腰を上げるそうだ。経験は少なくても厳しい春を体験した若木であれば、それ以上の安全策がすでに記憶されている事だろう。穏やかな季節の移り変わりだけを経験した若い動植物は、守り通してきた激寒対策を春陽と共に脱ぎ捨てて、長い冬眠から背伸びを始める。季節が移り変わる時期は常に「晴れ時々雨、たまに来る激変」なのだ。一番臆病な小さな動物が穴から顔を出す頃、やっと穏やかな春が訪れる。「冬の準備は急ぐ必要があるが、春の準備はゆっくりな方が安全だ」釣人が少年に安全策の基本を話した。自然の中で生き抜いて行くには、「考える事よりも正確に感じ取る事」が重要となる事がしばしば起こって来る。自然は待ってはくれないので、自分の経験から来る判断力を頼りに、実際の行動を起こして行かなければならない。自然の基本的なルールだろう。様々な素材を仕上げて行く職人の仕事も、一つの作業工程の度に、経験を頼りに自分の判断力が問われている様に感じられる。「やり方を考えるより、まず素材を感じ取る事」少年は春を待ち焦がれた。

跳ねる素材

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跳ねる素材 

毛鉤を巻く素材には、水流に溶け込んでに揺らぐ物と流れを弾いて跳ねる物がある。
水流の中では、揺らぐ素材は持久力が求められ、跳ねる素材には瞬発力が必要とされる。

毛鉤には、流れの中を沈下したり、泳ぎ上ったり、ターンしたりと様々な動きが要求される。しかも、その水流の中での動き方は、魚に最も魅力的に活き活きと泳がねばならない。これに失敗すると、丹精込めて巻いた毛鉤も、釣人の単なる飾り物に終わってしまう。そんな訳で、釣人が望みを託した毛鉤の探求には、涙ぐましい程の時間と精力が投入されている事は間違いのない事実だろう。素材の性質を知り、水流との相性を考える。毛鉤は素材の組み合わせやそれらの配置の順番で全く違う物に変貌するだろう。外見では見分けるのも難しい程の同形の毛鉤が、水流の中では全く違った生き物の様に動く事が経験と共に解って来る。「毛鉤の素材には、筋肉の様に持久力に富んだ物と瞬発力に優れた物があるんだよ」釣人は筋肉に例えて少年に毛鉤の素材を説明した。「専門競技の選手達の様に、その競技に適した筋肉が必要なの?」少年が釣人に質問した。「釣りは勝利を目指したり、メダルへ挑戦する事を目標にしたものではない。自分の好みや経験をふんだんに生かし、信頼出来る相棒の様な毛鉤を考えよう。バランス良く、配列に工夫を凝らして、独自の毛鉤を創るんだ」釣人は毛鉤の可能性を少年に伝えようとしていた。ちょっと変わった性質の素材を、適所に少量混ぜて検証して見よう。流れの中は、想像以上に動的な大きな可能性を含んでいる。

谷足加重

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谷足加重

斜滑降時の基本は谷足加重だ。左右の肩線を思い切って最大傾斜線の谷側へと向ける。
谷側の足は、親指、土踏まずの内側の筋肉を使い、足裏内側で体重を支えて斜面を掴む。

スキーは斜滑降姿勢からのシュプール、「山回り」ターンから学ぶだろう。基本は谷足加重の斜滑降姿勢にある。左右の肩を結ぶ「肩線」が、「最大傾斜線」(斜面で一番急角度作る線)としっかりと T字型、直角を為す程に谷側へと向けられている事が大切だ。この姿勢により、谷足スキーの山側エッジで自分の全体重がしっかりと支えられる。「山回り」ターンはこの姿勢で滑降中に山側エッジのコントロールを緩めながら踵を押し出し、山側へ登り上がる様なターンだ。次ぎに、いよいよ「谷回り」ターンを学び、 S字型のシュプールへと導入される。この時点で、「最大傾斜線」をどうやって突破するか?という難点を解決しなければならない。斜滑降姿勢での谷足加重のままでは、「最大傾斜線」へは達する事さえ不可能だ。そこで、谷足を一瞬蹴って、山足へと体重を移しながら、エッジコントロールを開放する。体全体で「最大傾斜線」を眺めると、スキーは直滑降の姿勢となり、「最大傾斜線」と平行に斜面を滑り降りる。この姿勢を安定良く耐えて、回る方向の谷足内側に徐々に体重を移して、再び反対方向の斜滑降姿勢に戻る。これで 「最大傾斜線」を突破する S字型のシュプールへと導入される。「川の激しい流れの中を安全に歩く方法を考えた時、スキーの滑降姿勢から学べる事が沢山あるんだよ。押し流され、滑り落ちる体を支えると言う観点で、<谷足加重>は基本的な姿勢だ」釣人はスキーの基本を基に少年に流れの中での歩き方を説明した。強い流れが釣人の体に作用した時の防御策は、押し流される方向に体を向け、「斜滑降姿勢の谷足加重」で耐えながら、ゆっくりと徐々に歩く事だ。自然の力に逆らう事は得策ではない。
 

忘れられない物

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忘れられないもの 

学生時代に街で流れていた歌のワンフレーズが、ふとした瞬間に蘇って来る事がある。
毛鉤箱の片隅に今も残っている、あの一匹を掛けた時の、残像の様な懐かしい時間達だ。

『忘れられないの〜 』、当時の「ピンキーとキラーズ」が歌った出だしのワンフレーズを、今でも懐かしく思い出す人はどの位いるだろうか?この歌が生まれた後に誕生した若者達が、既に大人になっている。随分と年月が流れた。当時の歌い手は、口を大きく開けてはっきりとした発声で歌い上げてくれたので、歌詞の一文字づつが良く聞き取れた時代だった。街を歩いていてふと見つけた落書きに、釣人は学生時代の街に流れていた当時の流行歌を鮮明に思い出した。「当時としてはお洒落な振付で歌っていた、ピンキーとキラーズと言う歌い手のグループがいたんだよ」釣人は少年が生まれる前の話をした。「この落書きを見ると、やっと魚が釣れる様になった頃に使った”モンタナ”と言う毛鉤を思い出すよ。アメリカで考案された簡単に巻けて割合良く釣れる毛鉤だったよ」釣人はまだ毛鉤釣りを始めたばかりの頃に教えて貰った毛鉤を思い出した。「こんな黒とピンクで鱒が釣れるの?」ヨーロッパの毛鉤に慣れている少年が驚いた。時代と共に流行が変わって行く様に、釣人の使う毛鉤も釣り続けた年月と共に変わって来る。そしてある時、ふと思い出されるものだ。『青いシャツ着てさ 、海を見てたわ〜』、釣人は懐かしいフレーズを口ずさんだ。少年は釣人が毛鉤釣りを始めた頃に巻いた”モンタナ”と呼ばれる不思議な色をしたアメリカの毛鉤を、この落書きから想像した。

バレンタイン・デー

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バレンタイン・デー 

ローマ皇帝の迫害下、269年に殉教したキリスト教の聖人ウァレンティヌスに由来した日。
本来は恋人達がカードや贈り物をとりかわす日であったが、チョコレート屋さんが頑張った。

聖人ウァレンティヌス(Valentinus)の英語読みがバレンタインで、 2月 14日がその聖人に由来する祝日とされた。英米を中心に、この日に恋人たちがバレンタイン・カードやプレゼントを交換し合う習慣が始まったと言われる。「我が祖国、日本では何時の間にか、女性から愛を打ち明けることが出来る日として、チョコレートを贈る習慣が芽生えている。しっかりしてくれ大和撫子!」釣人は少年を前に演説を打った。様々な習慣が外国から入り込み、何時の間にか外来種だけの池や沼の様になってしまった日本、ギャル Japan に心からエールを送りたい。日本を離れて初めて外から感じる感傷だろうか?釣人は消えて行く日本の在来種に、かすかな郷愁を感じた。「Love and Peace !! 愛に国境は無し」少年は少し膨らんだポケットを摩りながら余裕綽々だ。日本出国後 32年目を迎えた釣人は、まだ青いリンゴを齧っていた。

揺れるシルエット

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揺れるシルエット

毛鉤のシルエットとは固定した形ではなく、流れの中の流動的な水中フォームを指す。
流速により使われる素材の性質が問われて来るが、より魅力的に動き出す事が理想だ。

毛鉤は巻く人の釣り経験や心情が面白い程に素直に反映される。背伸びをした時期は様々な知識が盛り沢山に巻き込まれ、何かに追われている時は何処か逃げ腰の弱気な毛鉤となる。フライ・ドレッサーと言う呼び方が一時広まったが、自然の中で静かに流れと正対していると、もう少し親密な呼び方がより相応しい様に思われる。初めて使う毛鉤をそっと取り出して糸先に結ぶ。十分に練習を積んだ筈のキャスティングが、胸の鼓動の様に、なかなか安定してくれないものだ。「誰でも精一杯書き上げた恋文を渡す時は、胸がドキドキするものさ」釣人は少し早口で少年に言った。「初めてのラブレターこそは、大いに背伸びをして巻き上げよう。そろそろチューブ・フライのシルエットにも慣れておく時期だよ」釣人は少年に男同士として語って見た。「毛鉤のシルエットが動いた時、妖しい雰囲気が漂うのがいいんだよね!」少年は釣人をドキっ と驚かせた。二人は相変わらず、背伸びを競い合う釣りの同志だった。

簡略化へ

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簡略化へ

簡略化への挑戦は必要不可欠な要素の再確認から始まる。是非を問う前に検証を試みる。
抽出した各要素をよりシンプルに再び組み直した作品には、爽やかな探求眼が感じられる。

昨晩は「春一番」を思わせる突風が吹いた。今朝街へ出て見ると、各所でテラスの植木鉢や看板が飛ばされていた。こう言う日は、何時もの街に新しい発見がある。早速、散歩コースを変えて少し歩き回って見た。気温は思ったより上がって来ない。朝方は 0℃前後の冷え込みが続いているが、日照時間は随分と長く感じられて来た。ウィンドーに「カエルと青虫と若葉」が飾られていた。「新幹線にも見えるけど、ギリギリでカエルになってるね!」少年が窓のディスプレーを指差した。「カエルも穴から出て来る温かい春が近いんだね。このカエルはシンプルだけど表情がある」釣人は笑いながら、ふと、旨いもんだなあァ と感心した。緻密に作り上げられた作品の良さとは別に、簡略化への作者の意気込みが感じられる作品にも、ちょっとした心意気の魅力がある。積み上げて来た観察や検証を、ユーモアを感じさせる様な軽快なシンプルさで表現出来たら ...、そしてそれが旨く説明出来ない自分の気持ちをよりストレートに伝えてくれたら ...。簡略化への挑戦は、二人にそんな明るい夢を提案している様だ。





流木の馬

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流木の馬

川を漂い流れた果てに拾われた流木には、まるで生物の様な不思議な気配が残っている。水の「流れの精」とゆっくり道草を食いながら、一緒に素晴らしい旅をして来たからだろう。

拾い集めた流木で造られた木馬があった。竜の鱗の様に張られた木片が、その馬をより大きく崇高な感じに仕上げている。例え小さな一片であっても、流木には旅の気配が浸み込んでいる。それは確かに精巧に作られた剥製の馬よりも精悍に見えた。「何処か竜の様な風貌だね」少年が大きな木馬を見上げて言った。「一夜に千里を駆ける馬がいたと言われるが、この馬は何千里をも旅をしたのだろう。何処かに使い古した毛鉤が感じさせる様な肌合いを感じられるね」釣人はこの馬と相性が合うらしい。二人は何時の間にか、木馬の目に惹き付けられていた。少年はどんな渓谷を泳ぎ駆け抜けて来たのかと想像し、釣人は木馬が水の「流れの精」と過ごした時間を思った。朽ち果てるまで水に揉まれながら旅を続けた木片が羨ましくもあった。木馬はそんな二人に伝説の怪獣ネッシーの様にゆっくりと首をもたげて、「それはそれは長い旅だったよ」と語っている様だった。静かな川の薫りが漂って来た。


幹を流れるもの

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幹を流れるもの

本日の気度 2℃、最低 1℃。日出 8:10、日没 18:00。街路樹が枝を空へと伸ばし始めた。
春の水が幹の中を枝先へ吸い上げられて行く。若い芽は枝に支えられて風に揺られる。

強い樹なのだろう。地面の中で水脈を掴んでいるのかも知れない。他の樹々より勢い良く、枝を空へ反り上がらせている。まだ芽が開かない枝が、燃え上がる様なエネルギーで空へ伸びている。春の水が幹の中を音を立て昇っている様だ。豊富な餌に恵まれた流れを獲得した「ガキ大将の子鱒」と言ったところだろう。若いエネルギーに、まだ寒い冬風までが気持ち良く感じられた。久しぶりに詩人と待ち合わせをして、パリの街を左岸へ散歩した。途中、セーヌ川を渡る時、シテ島の河岸にある若い柳の枝が深い苔色の中に微かに若緑色を含んでいた。「セーヌ川の横でお月さんに輝く春の色ね」詩人が釣人に言った。帰宅途中の冬空に今年 2回目の満月が昇った。枝に支えられて春を待つ若芽も、今晩は丸いお月さんを眺めている事だろう。高緯度のまだ冷たいパリの冬風の中に、春の気配が少しずつ近づいている。

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