斜光の時

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斜光の時

蜻蛉は斜光の時にその美しさが際立つ。約束の空へ昇る姿。陽光がほのかに儚い命を染め、釣人に一期一会のゆるやかな時を与えてくれる。

水生昆虫は幼虫時代の一生大半を川底で過ごし、時が来ると輝く水表面へと昇り、濡羽を乾かし、成虫となり空へ舞う。やがて卵を抱いて水中に帰り、それを産み落として絶命する。
鱒川の魚達は共生するこれらの水生昆虫を常食として生き、それらの生存に合わせて彼らの生命サイクルを形成している。水辺の舞台は、天候に左右され常時変更されて催される。
蜻蛉(カゲロウ)と時をずらして現れるトビケラは、羽化時の水中気泡の舞が劇的で美しい。
川底の砂利床で幼虫期を過ごし、蛹となり、やがて繭を食い破って水中に躍りだす。まだ畳まれたままの蛹羽を胸部両脇に納め、前肢を駆って水面へ泳ぎ昇る。脱繭と同時にガスをはらんだ気泡に包まれ、水幕を通す陽光を受け虹色に光り輝き、一路懸命に水面を目指す。
野生鱒は水生昆虫の気泡の舞を見逃さない。釣人はその気泡の舞を毛鉤上に模倣する。
相棒は陽光に紅色が増す「斜光の時」を待った。舞台の幕が今静かに上がろうとしている。




あどけない瞳

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あどけない瞳

掛けたファリオから毛鉤を外し、少年はその姿を見、その瞳を見つめ、そして流れに戻した。
まだあどけない眠そうな瞳だが、この鱒川で自らの縄張りを守り生きる野生鱒の瞳だった。

遡上アローズを掛け、我武者羅にリールを巻き、竿を捌いた少年の釣姿に何かが変わった。
まだ不器用であるが若干の余裕が生まれ、掛けた鱒の寄せ方に優しさの様な物を蓄えた。
遡上魚の力強さや脳裏に焼き付いた巨鱒、相手の素晴らしさを少年は体内に感じ取った。
鱒川の野生の証、美しい朱点を体に纏い、神秘的な黒い瞳の周りに金冠が施されている。
水流をしっかり捕らえる各鰭は大きく、オレンジ色を醸し、魚体の鮮やかな朱点と調和する。
「子犬の様に小さく尖った歯が生えていた」少年は毛鉤を外す時、野生鱒の年齢を感じた。
湧き上がる清流が若緑に覆われ、蜻蛉が頻繁に舞う季節、野生鱒は成長の時期を迎える。
もし再会出来たら、このファリオも野性味を更に増した美しい野生鱒に成長しているだろう。
まだあどけない瞳は、五月の成長の中で、大自然から生き抜いて行く道を学び取って行く。







緑の水辺

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緑の水辺

若緑が全てを覆っている。その緑に釣人は包み込まれ、共生する水辺の命の美しさをあらためて心に留めた。晴天に恵まれ、三人は五月の川風に吹かれて緑の水辺を歩いた。

亡き師匠が愛した川。若き日の師匠がパリからベスパで風を切り、走って通った川辺だ。
約束の空へ!舞い昇ろうとする蜻蛉。流れには野生鱒が、空には燕が待ち受けている。
儚くも絶える事なき蜻蛉の舞を清流が見守りながら、今年も 5月の盛期が川辺に訪れた。
何時の頃か、竿を持った釣人がこの緑の水辺を訪れ、その釣人はこの流れに通い始めた。
花の様に美しい毛鉤を巻き、流れに溶け込むカッコいい釣着で、その釣人は通い詰めた。
若緑が全てを覆う透明な湧き水の中で、その釣人は掌に輝くファリオの朱点を抱いた。
やがてパリのベスパは来なくなった。今春 4月、詩人、少年、相棒、釣人の 4名が訪れた。
5月、この緑の水辺に少年、相棒、釣人の 3名が再び訪れ、竿を持って流れに溶け込んだ。
「おじさんが愛した川は今日も素敵で綺麗だよ!」釣人は緑の水辺で川風と話していた。

セーヌ川の巨鱒

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セーヌ川の巨鱒

何処の川や釣場でも、時折大きな魚が人前に姿を晒す。そして時々、その姿を消して行く。
大きな魚の命に関わる危険な存在は、竿を持った釣人である事は変えられぬ事実である。

少年は橋の欄干から初めて見る野生の巨鱒を、偏向グラスを掛け、じっくりと観察した。
小石をそっと近くに落として見ると、瞬時に姿を消すが、すぐ元の居場所へと戻って来る。
人に姿を晒すこの場所、橋から数十メートルが禁釣規定域である事を既に感知している。
「じっくりと観察しておくんだ。この禁釣域を出ると、たとえ幼鱒と言えども、野生鱒はその姿を釣人の前には晒してくれない。それが野生鱒が鱒川で生き抜いて行く為の鉄則なんだよ。竿を持って鱒川を歩く時、まず最初に、野生鱒に先に発見されない様に歩く工夫が基本になるんだよ」釣人が巨鱒を観察している少年に、鱒川を歩く時の最初の基本を説明した。
「揺れながら上流を見て、流れに平行に定位している」少年は巨鱒の仕草を頭に焼付けた。
「川には複雑な流れが幾通りもある。どの釣人も気付かなかった未開の流れの中にこそ、 とてつもない巨大野生鱒が育まれているんだ」釣人が少年を鱒川の流れの世界へ誘った。
少年はブルターニュ遡上アローズが上る激流とこの巨鱒が泳ぐ穏やかな流れを考えた。
移動をする流れとそこに棲み付く流れ。今、その魚はどちらの流れを泳ぐのかを見極める。
セーヌ川の巨鱒は流れに平行して定位しながら、上流から流れてくる餌を待ち構えていた。


五月 セーヌ川上流

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五月 セーヌ川上流

休暇に若干余裕有り。蜻蛉舞う五月のセーヌ川上流へ!少年と相棒の約束が実現した。
日の出前に出発、深夜パリ帰宅の覚悟の日帰釣行だが、少年は竿を握って飛んで来た。

五月、そろそろ大型蜻蛉(メイフライ)が舞い始め、川の増水も穏やかになる季節だ。
パリ南東 270km程のセーヌ川上流、「春の川見」は 4月だった。緑も育った頃だろう。
斜光時にじっくり釣りたいので、移動途中のシャブリー村でしっかり昼食を摂る事にした。
シャブリーは気が利く白ワインが多く、手頃な値段で良質ワインが戴けるワイン村だ。
「急な出発で予約は入れてないけど、期待のレストランよ」相棒はワイン村に嬉しそうだ。
「ご馳走様!」育ち盛りの少年はデザートを平らげ、釣人と相棒は食後コーヒーを飲んだ。
いざ!セーヌ上流へ。昼食で少し重くなったが、車は軽快にトップギアで釣場へと快走した。
セーヌ川上流の水量は安定し、期待通り透明度も高まり、五月の緑に深く覆われていた。
ブルターニュ遡上アローズを流れで観察して以来、少年は偏向グラスを常に携帯している。
少年は早速、偏向グラスを掛け、橋の上から目ぼしいポイントを注意深く観察開始した。
「大変だ!凄い鱒が居る!」少年が目丸くして叫んだ。五月の川が野生鱒を見せてくれた。




我家帰宅

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我家帰宅

ブルターニュ鮭釣行を終え、パリに夜遅く戻る。久方振りの我家に荷揚げして熟睡する。
早朝目覚め、近所のパン屋へ急行する。朝焼立てのパンを齧り、パリの生活が始まる。

帰路のドライブ疲れが若干残るが、二杯目のコーヒーで復活。釣具の後片付けを開始する。
ウェイダー(靴付防水着)を掃除すると川砂が落ちた。ブルターニュの微かな匂いが香った。
後片付けが一段落、相棒と連れ立って、パリ6区の隠れ家「Dragon」の様子見に出掛ける。
隠れ家「Dragon」への道すがら、「山鳩の巣」に立寄ると、緑のカーテンで覆われていた。
暫く留守宅の様だ。美味しい木の実を求めて、長旅にでも出てしまったのだろうか?
緑のカーテンで覆われていたが、「山鳩の巣」には生活の気配は余り感じられなかった。
隠れ家「Dragon」留守番役のフクロウ君に挨拶。「今年は鮭は残念でした」と報告する。
隠れ家の大掃除を終えて、帰り道は「右岸の大樹」経由だ。お土産話を持って行こう。
大樹根元に、学校帰りの少年がセーヌの流れを眺めていた。少年に先を越されてしまった。
「幼鮭タッコンと遡上魚アローズを沢山釣ったよ!」少年が三人のお土産話を聞かせた。
「宿題が終わったら 5月のセーヌ上流に釣りに行こう!」相棒が随分乗り気で少年を誘った。
自宅アパート大改造という途方もない今年の宿題を思い出し、釣人はふと頭を掻いた。
山鳩夫婦の俄日曜大工には負けられない。釣人の大工仕事、日頃の技の見せ所である。
『セーヌ上流釣行は、そんなに遠い花火ではない』少年と釣人が口を合わせて暗唱した。
帰宅したら嬉しくなる我家とは?釣人は日曜大工「山鳩の巣」からアイデアを探していた。
留守中にパリの樹々はすっかり緑葉に覆われ、初夏を思わせる深緑の季節を迎えていた。







納竿

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納竿

ブルターニュ鮭釣行が終わった。心地良い疲労感を暖炉の焚火が暖かく癒してくれる。
三人の心に、出会えたひとつひとつの魚達の瞳が、川の流れと共に輝いて浮かんで来た。
 
遡上鮭とは出会えなかった。苦戦の末、今夕刻に授かった遡上アローズ 4匹は嬉しかった。
思わぬお土産に民宿の皆は歓び、ブルターニュが育んだ大きく美しい魚を大切に納めた。
奥さんが昨日持ち帰ったアローズを、夕食前菜にとびっきりの料理で食卓のお皿に盛った。
新鮮なアローズは畑で採られた薬味草と共に調理され、七人はその美味に舌鼓を打った。
「今回は遡上鮭とは出会えなかった。果たして遡上鮭は、流れの中で、僕達の鮭鉤を見つめてくれていたのだろうか?」釣人が暖炉の炎を見ながら、少年と相棒にぽつりと語った。
「それはブルターニュの遡上鮭に聞いて見なけりゃ解らないよ」少年と相棒がウィンクした。
「毛鉤竿のキャスティング練習を今年から始めて見ようかな?」相棒が驚くべき発言をした。
初披露したスペイキャストを見て、感じる物があったらしく、投げる楽しさを習得した模様だ。
「桃源郷タッコンの敏捷性、遡上アローズの力強さは忘れないよ」少年が炎を見て言った。
「今回の鮭釣行では沢山の宿題を頂いた。嬉しい限りだ」釣人は少し照れて頭を掻いた。
寝る前に三人はブルターニュの流れを共にした各釣竿を磨いて、釣竿ケースに納竿した。
明早朝パリへ向かう。国道を使って寄道走行、道草を楽しみながら 1日掛かりで帰宅しよう。




四人分のアローズ

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四人分のアローズ

英国から移住した老父、老母、ご主人、奥さんの四人所帯の民宿から三人は川へ通った。
民宿では暖炉の焚火と美味しい夕食、毎晩の安眠、早い朝食と心からのもて成しを受けた。

「アローズ 4匹を釣り、民宿の 4名にお土産にしたらどうだろう?」釣人が二人に尋ねた。
昨日アローズ 1匹を持ち帰った処、初めての土地の季節の遡上魚をとても喜んで貰えた。
対岸の流れで遡上鮭を目指したが天候良過ぎか?遡上鮭からの魚信は伝わらなかった。
そろそろこの流れを後続に譲るべき時間だと釣人は察知して、少年と相棒に相談した。
「1人が食べる 1匹の遡上魚、4名で 4匹のアローズ、賛成!」少年はお土産に大賛成だ。
「そう言えば、ブルターニュで初アローズを釣った時もお土産にしたね」相棒も賛成した。
「よし、決まった。Wハンド鮭竿を納竿、9ft鮭竿で対岸に移動だ。今日初めて披露したスペイキャストは、記憶の隅に仕舞っておいてくれ。来春迄に練習を積もう。今年の遡上鮭は残念だが、この好機を生かし、遡上アローズを徹底的に学んでおこう」釣人が少年に約束した。
昨日は釣果に恵まれた。ところが、今日の遡上アローズは一筋縄では行かなかったのだ。
昨日同様に竿を置き、特等席で高みの見物を決め込んだ相棒の声援空しく、夕方を迎える。
少年と釣人の懸命なラストスパートで夕刻ギリギリにやっと 4人分のアローズを収めた。
流れる川は時として釣人に試練を与える。そして釣人はそれを受け入れながら成長する。
三人は与えられた美しいアローズに心から感謝、最終日の竿を納竿して川に別れを告げた。




遡上鮭へ

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遡上鮭へ

ブルターニュ鮭釣行の最終日を迎えた。今回は三人共、まだ遡上鮭とは出会っていない。
昨日アローズが遡上した流れの対岸、流れを変え、遡上鮭との出会いに鮭鉤を泳がせる。

昨日は遡上するアローズとの遭遇があり、三人は幸運に満ちた釣日を過ごす事が出来た。
釣果十数匹に恵まれ、最後の一匹を民宿へお土産に持ち帰り、それ以外は流れへ戻した。
昨夜、釣人は最終日をどの様に釣ろうか?食後の暖炉の焚火に温まりながら思案した。
「アローズの群団が遡上している。鮭は何処にいるのか?アローズの遡上路と同じ流れの
より川底に潜んでいるのか?大群団を避け、違う流れで遡上に適した低気圧の日、雨の増水を待っているのか?遡上鮭は何処にいるんだ?」釣人は暖炉の炎を眺め思案していた。
同じ遡上魚であるが、アローズの産卵場所は中流域、鮭は上流域の源流で遡上産卵する。
遡上アローズは晴天時に活発化するが、遡上鮭は低気圧の気配ない場合は沈静化する。
水量安定する中流域産卵と減水変化する源流域産卵が天候と遡上に強く関わっている。
「昨日は遡上アローズと共に素晴らしい釣日を過ごした。最終日も天候は晴天でアローズ活性日となると思われるが、大夢、遡上鮭へ最後の自作毛鉤を泳がせて見よう。狙う流れは、アローズの大群が占める流れを大きく変えて、対岸の流れだ!」釣人は決心に至った。
最終日、対岸には既に鮭釣人がいた。遡上鮭への大夢が対岸の同じ流れを泳いでいた。
鮭釣人は流れに毛鉤を泳がせ、先達のマナーに従い、納得した段階で後続に流れを譲る。
「狙い目の流れを同志で譲り合って使う。流れに沿って下る釣人や釣人の毛鉤を決して追い越して流さない。遡上鮭に夢馳せる鮭釣同志のマナーは、現場を踏みながら、鮭釣りの達人老師を見習って、少しずつ習得して行こう」釣人が少年に鮭釣りマナーを説明する。
最終日、少年は宝物の鮭竿14ft、釣人は愛竿スペイ竿で自分の勝負鉤を存分に泳がせる。
「今日はスペイキャストを披露しよう。体で感じ取ってくれ!」釣人は少年を誘った。
相棒は関上流で昨日投げたルアーの後ろに一瞬感じた「黒影」に大夢を託して挑んだ。
瑠璃色の少年の鮭鉤と黒鳶色に燻し銀の釣人の鮭鉤、並んで対岸の流れを泳ぎ始めた。
最終日の釣り時間がラストスパートを告げ、源流の水は下流へ道標の道筋を刻んでいた。






暖炉の焚火

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暖炉の焚火

釣場から民宿に戻ると、農家ならではの大きな暖炉に、暖かく優しい焚火が燃えている。
暖炉の炎は静かな優しい音を立て、心地良い香りで一日の出来事を振り返らせてくれる。

ブルターニュの遡上魚と遭遇する幸運に恵まれ、素晴らしい釣日を過ごして民宿に戻った。
「この季節を遡上するアローズ、皆さんで味わって下さい」少年は奥さんに魚を手渡した。
民宿の奥さんは大きな美しい魚に目を丸くして、仕事中の皆に声を掛けて喜んでくれた。
英国から移住後、改築や開墾が忙しく、この土地の季節の遡上魚とは初対面だった様だ。
釣人が「アローズ」の生い立ちを話すと、ご主人が百科事典を取り出して皆で確認した。
老父と老母も、この土地の季節の遡上魚をおおいに喜んでくれて、釣り時の話が弾んだ。
農家の暖炉での焚火は、都会の余りにも高価で贅沢な炎とは違い、静かで暖かい焚火だ。
「この土地風の食べ方で明晩皆で一緒に戴こう!」奥さんが魚料理の本を片手に言った。
自然の恵みに感謝して、土地の季節の遡上魚は明晩の七人一緒の食卓で戴く事になった。
暖炉では枯れ木や開墾で掘り起こされた木が、皆を暖めて燃え尽き、静かに灰になった。
少年は心体全身を暖炉で暖められながら、少年の宝物、鮭竿14ftを夢の中で磨いていた。
相棒と釣人は食後の暖炉の前で、今日の良き釣日に感謝、遡上魚遭遇の祝杯を交わした。







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