JUGEMテーマ:日記・一般
蜻蛉は斜光の時にその美しさが際立つ。約束の空へ昇る姿。陽光がほのかに儚い命を染め、釣人に一期一会のゆるやかな時を与えてくれる。
水生昆虫は幼虫時代の一生大半を川底で過ごし、時が来ると輝く水表面へと昇り、濡羽を乾かし、成虫となり空へ舞う。やがて卵を抱いて水中に帰り、それを産み落として絶命する。
鱒川の魚達は共生するこれらの水生昆虫を常食として生き、それらの生存に合わせて彼らの生命サイクルを形成している。水辺の舞台は、天候に左右され常時変更されて催される。
蜻蛉(カゲロウ)と時をずらして現れるトビケラは、羽化時の水中気泡の舞が劇的で美しい。
川底の砂利床で幼虫期を過ごし、蛹となり、やがて繭を食い破って水中に躍りだす。まだ畳まれたままの蛹羽を胸部両脇に納め、前肢を駆って水面へ泳ぎ昇る。脱繭と同時にガスをはらんだ気泡に包まれ、水幕を通す陽光を受け虹色に光り輝き、一路懸命に水面を目指す。
野生鱒は水生昆虫の気泡の舞を見逃さない。釣人はその気泡の舞を毛鉤上に模倣する。
相棒は陽光に紅色が増す「斜光の時」を待った。舞台の幕が今静かに上がろうとしている。