ローマを後にする。浅い居眠り中、相棒に起こされた。モンブランが ... 、過ぎた!
既にカメラフレーム外に見えた。糸を引き出しながら、キングの背鰭が消えて行く。
何回かアルプス上空を行き来しているが、今回のモンブラン山頂は、格別だった。
青空へ突き出した頂は、海で掛けたキングサーモンの背鰭の如く、悠々と糸を引き
出しながら、遥か沖合へと遠退いて行った。釣人は山々の頂に、シアトルの海釣り、
キングサーモン(太平洋鮭)のムーチング釣りを思い出していた。海の鮭釣りは引き
が強い。浅層で掛かるのがシルバー、深場に餌針が届いて掛かるとキングになる。
シルバーは海面へ浮上すると跳ね回るが、キングは海面へ浮き上がっても悠々と
背鰭を空中へ晒して力強く沖へ向かう。たっぷり巻き溜めたモノフィラメント釣糸に
ステンレス・ベアリング入りの撚戻し、頑強な鮭針、リール、柔らかめで腰の強い竿
が有れば良い。陸にカーレン(潮流)が寄る釣橋から、錘なしのフカセで狙う釣方が
釣人の好みだった。小舟も不必要なのだ。アトランティックサーモン(大西洋鮭)の
川での毛鉤釣り同様、シンプルな程興味深い。写真に納める事は適わなかったが、
機内窓には、寝惚け眼の釣人を遥か遠く沖合へ引きずるモンブラン山頂が見えた。