毎年春が訪れ、川が開かれる。川で冬を越した魚、海から遡上する魚達。
釣人は春を待ち焦がれ、身の程知らずの夢に賭ける。青色の花が咲く頃だ。
釣人と少年、相棒の三人組は、相変わらず、ブルターニュの公共釣り場へ
毛鉤竿を担いでは通っている。土地の釣人には、「毛鉤でやるのかい?」と
言われて来たが、今ではお馴染みの顔ぶれに入れて貰っている。餌釣りや
ルアーに混ざり、公共の釣り場で「夢へ賭ける」。そんな釣り方が、好きだ。
以前、『イギリスにおける最高のサーモン・フィッシャーの一人で、三千匹近く
のサーモンをフライで上げている。こうした卓越した釣人の意見というものは
私にとって最も興味のあるもので ... 』と記された釣書に目を通した事があり、
その名を R公爵と記憶した。まだ自分自身の釣りスタイルを確立していない
時期であったので、かなり強烈な印象が残った。今では、やっと何とか自分
自身を見出し、公共の釣り場で年に数匹の遡上鮭を上げる達人に親しみ
と尊敬を抱く、そんな釣人へ成れた。自分自身が現実を生きる其の国内で、
何とか「其の夢」と出会えないものか?釣人は、相棒と、少年に巡り合った。
春になり、青色の花が咲く頃、釣人の白昼夢はどうしようもなく重症となる。
夢は物量では計れない。流れへ通う釣姿の中に、青く咲くものかも知れない。